「養育費」はどのように請求すればよいのでしょうか?いくら請求できるのでしょうか?
両親は、未成熟の子を扶養する義務を負っています(民法877条1項)。この扶養義務は、離婚後、離れて暮らすことになったとしても、引き続き発生します。
この、非監護親が未成熟の子に対して支払う費用を一般的に「養育費」と呼んでいます。
ここでは、この「養育費」について、基礎的な説明をさせて頂きます。
養育費の決め方
「養育費」について、民法は以下のように定めています。
民法766条(離婚後の子の監護に関する事項の定め等)
1 父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。
2 前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、同項の事項を定める。
3 家庭裁判所は、必要があると認めるときは、前二項の規定による定めを変更し、その他子の監護について相当な処分を命ずることができる。
4 前三項の規定によっては、監護の範囲外では、父母の権利義務に変更を生じない。
この第1項のうち、「子の監護に要する費用の分担」の部分のことを、一般的に「養育費」と呼んでいます。
養育費も、婚姻費用や面会交流などと同じように、可能であれば(元)夫婦間の話し合いで決めることになりますが、話し合いで決めることができない場合、家庭裁判所の調停を利用することになります。また、調停がまとまらない場合は裁判所が「審判」によって養育費の額などを決めることになります(民法766条2項)。
- 婚姻費用については(元)夫婦間で合意ができる場合は合意により決め、合意が難しい場合は家庭裁判所の調停・審判を利用することができる。
合意によって変更することもできますし、合意が整わない場合は家庭裁判所の調停(養育費増額の調停・審判、養育費減額の調停・審判)を利用することもできます。ただし、家庭裁判所によって養育費の増額・減額を認めてもらうためには、「事情に変更を生じたとき」という条件を満たすことが必要です。詳しくはリンク先をご覧ください。
養育費の算定方法
① 家庭裁判所が養育費を定める場合の基準
養育費の金額も、(元)夫婦間で合意ができるのであればその合意で金額を定めることになりますが、家庭裁判所の調停・審判を利用した場合、合意が整わないと裁判所が金額を提案していくことになります。
家庭裁判所の基準は、婚姻費用と同じで、「養育費・婚姻費用算定表」を参考に決めていくこととなります。詳しい解説は以下のリンク先をご覧ください。
「養育費・婚姻費用算定表」の考え方は婚姻費用とほぼ同じですが、婚姻費用との違いは、婚姻費用は配偶者の生活費と未成熟子の費用が含まれているのに対し、養育費は未成熟子の費用のみなので、金額は養育費の方が低くなります。例えば、家庭裁判所の作成した基準に従って計算すると、以下のようになります。
ケース1
夫婦と子1人(10歳)。子は夫と同居。夫の収入300万円(給与)、妻の収入500万円(給与)のケース。
婚姻費用 妻は、夫に対し、毎月6万8129円の婚姻費用を支払う。
養育費 元妻は、元夫に対し、毎月4万1859円の養育費を支払う。
ケース2
夫婦と子2人(3歳と5歳)。子2人はいずれも妻と同居。夫の収入1000万円(給与)、妻の収入100万円(給与)のケース
婚姻費用 夫は、妻に対し、毎月21万7592円を支払う。
養育費 元夫は、元妻に対し、毎月16万4021円を支払う(この金額は子2人分の金額である。)。
「養育費・婚姻費用算定表」の利用方法は婚姻費用の場合と同じです。まず、源泉徴収票や確定申告書の写しなどによって両当事者の収入額(額面)を算出します。給与所得か自営の所得かで基準が異なります。その上で、子の人数、子の年齢に応じ、養育費の額を算定していきます。一般には、「算定表」を利用して簡易に数字を出すことが多いですが、上記のように、計算式に当てはめて計算をすることにより、詳細な数字を出すことができます。
また、算出される養育費は統計上の平均的な家庭を想定したものになることも婚姻費用の場合と同じです。そのため、婚姻費用の場合と同じく、事案によって修正が必要となる場合もあります。例えば、「子どもが私立の学校に通っており、高額な学費の負担がある場合」などです。詳しくは以下のリンク先をご覧ください。
② 養育費の支払義務はいつまで続くのか?
養育費の支払義務は子が成熟するまで続きます。子が収入を得て、独立して生活するまで続くことになります。現在の家庭裁判所の実務では、原則、子が20歳に達する月まで、特別の事情がある場合にこれを修正するという運用になっています。
- 家庭裁判所は「養育費・婚姻費用算定表」を基準に養育費の額を決める。
- 事案に応じ、算定表で算出された額を修正する必要が生じる場合がある。
- 養育費の支払義務は、原則、子が20歳に達する月まで続く。
事案によって様々ですが、多いのは、子が私立学校に進学しているとき、別居親が子の住んでいる家の住宅ローンや家賃を負担しているときです。
家庭裁判所の実務は、請求時からとしています。一般的には調停・審判の申立時ですが、例えば、それ以前に内容証明郵便で請求をしていた場合など、請求時を証明することができればその時点が支払開始時とされます。
既に子が大学に進学している場合、大学への進学が決定している場合などでは養育費の支払いの終期が22歳の3月末までとされることがあります。医学部に進学しているようなケースでは、さらに長い期間の支払が命じられるケースもあります。
他方、子が独立して収入を得て、自立して生活をしている場合には養育費の支払義務は終了します。
現時点では定まった運用はありませんが、裁判所による研究である「養育費、婚姻費用の算定に関する実証定期研究」には、「成年年齢引き下げによる影響」という項目で「個別の事案に応じて認定される」としつつ「未成熟子を脱する時期が特定して認定されない事案については、未成熟子を脱するのは20歳となる時点とされ、その時点が養育費の支払義務の終期と判断されることになると考える」と記載されています。現在の家庭裁判所の運用は、この研究に記載されているものと同じく、養育費の支払義務の終期を「20歳に達するまで」と考えているケースが多いように思われます。ただし、民法の改正(成人年齢の引き下げ)からまだ時間が経っていませんので、今後、世の中の変化に合わせ、家庭裁判所の運用が変化する可能性もあります。
養育費の支払確保
家庭裁判所の調停、審判、離婚訴訟の判決、和解などで養育費が定められた場合や公証役場で公正証書を作成した場合、支払義務者が任意に養育費を支払わない場合には、給料や預貯金などを差し押さえ、強制的に養育費を回収することができます。ただし、文面によっては強制執行が認められない場合もあり得ます。調停・審判によって決まる場合や公正証書を作成する場合も、弁護士が関与をしておくと安心です。
家庭裁判所や公証役場の関与なしでされた合意では、たとえその合意に弁護士、司法書士、行政書士などの専門家が関与していたとしても、強制的に回収することはできません。家庭裁判所や公証役場を利用することによる手間、費用の問題はありますが、将来の未払いのリスクへの対応を考えると、これらを利用して養育費の合意をしておくことをお勧めします。
- 家庭裁判所の調停や審判などで養育費が決まった場合、公正証書で養育費の合意をした場合には、原則として、養育費を強制的に取り立てることができるようになる。
- 逆に、専門家が関与をして書面を作成したというだけでは、強制的な取り立てはできない。
養育費が不払いになった場合の対応について、裁判所は、以下のような制度を準備しています。
① 履行勧告
裁判所の調停等で決まった内容を相手方が守らない場合に、裁判所から、相手方に対して、その内容を守るよう、説得・勧告をする制度です。ただし、この勧告に強制力はありません。「裁判所の名前で支払うよう促してくれる」という制度となります。
② 強制執行
裁判所が、支払いをしない相手方の財産を差し押さえ、その中から強制的に支払いをさせる制度です。差し押さえる財産は様々なものが考えられますが、預貯金・不動産などの財産を差し押さえることもあれば、相手方が支払いを受けている給与を差し押さえることもあります。財産の所在が分からないケースでは、次の③の手続きを検討することになります。
③ 財産開示手続・第三者からの情報取得手続
「財産開示手続」は、債権者(支払いを受ける側)からの申立により、裁判所が、債務者(支払う義務を負っている側)を裁判所に呼び出し、財産の内容を明らかにするよう、命令する手続きです。
財産開示手続を利用しても債務者の勤務先がわからなかったとき、財産の所在が分からなかったときなどに、裁判所が公的機関や銀行などから債務者の情報を取得する「第三者からの情報取得手続」という制度もあります。
これらの制度を利用し、債務者の財産を把握したうえで、強制執行を行うこととなります。
上記それぞれの制度について、詳しい説明・手続きなどは、以下のリンク先をご覧ください。
- 調停等で決まった養育費の支払いをしてもらえない場合、強制執行を利用することを検討することになる。
- 相手方の財産の状況がわからない場合には、財産開示手続等を利用することが考えられる。
- 相手方に収入・財産がない場合には、強制執行により履行の確保をすることはできない。
養育費の確保が難しい場合
以上のように養育費の確保についてはいくつかの手続きが用意されてはいるのですが、相手方に収入・財産がない場合には、強制執行により履行の確保をすることはできません。このような場合、養育費以外の制度で生活費の確保を考えざるを得ません。
まず、養育費を受け取ることができているか否かにかかわらず、児童扶養手当を受給できる可能性があります。また、各市町村で養育費の支払い確保に関する制度等を独自に用意している場合もあります。まずは各市区町村の子ども関係の窓口への相談をお勧めします。その他、事案によっては生活保護の受給等も検討することになります。一度、お住いの市区町村にご相談下さい。
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