離婚の合意を「公正証書」にすることは必要なのでしょうか?
離婚の相談をお受けしていると、しばしば「離婚の合意を公正証書にしたほうが良いのか?」という質問をお受けします。
この質問への一般的な答えは、
- 絶対に公正証書を作成しなければならないということはない。
- その上で、公正証書を作成した方がよいケースと公正証書を作成しなくても良いケースがある。
ということになります。ここでは、なぜ、このような回答になるのか、公正証書を作成したほうが良いケースとはどのようなケースなのか、について、説明します。
なお、1・2は公正証書の説明になります。「どのようなケースで公正証書を作成したほうが良いのか知りたい」という方は、3の「離婚の合意を「公正証書」にした方がよいのか?・・・協議離婚の場合」をご覧ください。
「公正証書」とは何か?
公正証書とは、私人(公務員ではない個人又は法人)からの嘱託により、公証人がその権限に基づいて作成する文書のことです。
公証人は、法務大臣に任命されて「公証」という行為をする者のことをいいます。
法務省によると、「公証」とは、「国民の私的な法律紛争を未然に防ぎ、私的法律関係の明確化、安定化を図ることを目的として、証書の作成等の方法により一定の事項を公証人に証明させる制度」とされています。公証人が「公証」した書面が「公正証書」ということになります。
法律上、一定の書面については、「公正証書で作成しなければならない」とされています。また、「公正証書で作成する必要はないが、公正証書で作成することにより、通常の書面とは異なる、特別な効果を得ることができる」というものもあります。
離婚の書面については「公正証書で作成しなければならない」という決まりはありません。一方で、「公正証書で作成することにより特別な効果を得ることができる場合がある」ということになっています。離婚の際に公正証書を作成するべきかは、この「特別な効果を得る必要があるか」という点から考えていくことになります。
公証人は、法務大臣が任命します。実務上は、裁判官・検察官などを務めていた方が公証人になることが多いとされています。
公証人は、国家公務員法上の公務員ではありませんが、法務大臣の監督を受けて職務をしており、実質的に公務員であるとされています。
「公証役場」は、公証人が執務をする事務所のことです。全国に約300か所あります。裁判所、法務局などに入っているというわけではなく、「公証役場」という事務所が設置されています。どこに公証役場が設置されているかは、「日本公証人連合会」のウェブサイトで検索をすることができます。
公証人は、職務の執行につき、嘱託人又は請求をする者より、手数料、送達に要する料金、登記手数料、日当及び旅費を受けることとされており、その額は、「公証人手数料令」の定めるところによると決まっています。公証人が、公証人手数料令に書かれている以外の費用を請求することはありません。
公正証書の特別な効力
公正証書と一般の文書の違いはいくつかありますが、重要なものは以下のとおりです。
① 公正証書は公証人がその権限に基づいて作成した文書であり、公文書であるということから、文書の成立について真正である(その文書が作成名義人の意思に基づいて作成されたものである)との強い推定が働く。
② 金銭の支払を目的とする債務についての公正証書は、債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載されている場合は執行力がある。
③ 公正証書の原本は公証人役場で管理される。
以下、説明をします。
① 証明力が高い
ある文書について、その文書が作成名義人の意図に基づいて作成されたものであるかが問題になった場合、公文書であれば、「作成名義人の意図に基づいて作成された可能性が高い」と推定されることになります(民事訴訟法228条2項)。そのため、公文書については、偽造であると証明することが、私文書に比べて難しくなっています。
ただし、公正証書で作成した場合であってもその文書が「効力のないもの」とされることはあり得ます。例えば、公正証書で作成された遺言も無効になる事例は、少ないですが、あります。
② 強制執行を行うことができる
通常、相手方の給料や財産を強制的に差し押さえるためには、判決など、裁判所の作成する文書を取得することが必要です。裁判所の作成した文書以外の文書では、相手方から強制的にお金を取り立てることはできません。
例外的に「金銭の支払いを目的とする債務」についての公正証書のうち、「債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載されたもの」については、裁判所の判決と同じように、強制執行を行うことができることになっています。このような公正証書を作成しておけば、裁判所で判決などを受ける手続きをすることなく、給料や預金などを差し押さえることができるようになります。
なお、強制執行の手続は、裁判所を利用しなければなりませんので、ご注意ください。強制執行の手続き自体は、判決がある場合と、ほぼ同じです。
③ 原本を公証人が管理をしてくれる
公正証書の原本は公証人役場で管理をされます。ご本人は、(認証のある)コピーを受け取ることになります。仮にこのコピーを紛失した場合、公証人役場に行けばコピーの作成をお願いすることができます(手数料はかかります)。そのため、作成した契約書を紛失するリスクがなくなります。
④ 公正証書を作成することのデメリット
公正証書を作成する場合、原則として、公証人役場に出向かなければなりません。また、公正証書の作成には、通常、数万円の費用が掛かります(契約の内容によって手数料は異なります。手数料は規則で定められています。)。この手間と費用が、公正証書作成のデメリットになります。
以上のうち、離婚の事案で重要になってくるのは、②の「強制執行を行うことができる」という点です。以下、解説します。
離婚の合意を「公正証書」にした方がよいのか?・・・協議離婚の場合
① 原則・・・公正証書を作成する必要はない
先ほどもお話ししましたが、もう一度確認をしておくと、
民法の規定上、離婚について、公正証書をつくらなければならないという決まりはない
です。協議離婚の場合、「離婚届」を(適法に)提出すれば、離婚が成立します。「離婚届」は各市区町村の窓口などに設置されている書式に記入をすればよく、公証人役場に行く必要はありませんし、公正証書を作成する必要はありません。協議離婚の手続は、以下のリンク先もご覧ください。
その上で、協議離婚の場合に「公正証書を作成したほうが良いのか?」という質問にお答えすると、「公正証書を作成した方がよいケースと公正証書を作成しなくても良いケースがある」ということになります。詳しくご説明します。
② 公正証書を作成したほうが良い場合
先ほどお話ししたとおり、公正証書の効力のうち重要なものは、「金銭の支払いを目的とする債務」についての公正証書のうち、「債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載されたもの」については、裁判所の判決と同じように、強制執行を行うことができるということです。そのため、以下のようなケースでは、公正証書で合意書を作成していくことにより、将来の未払いに備えることができます。
- 養育費の合意をする場合
- 未払い(将来支払われる予定)の婚姻費用・財産分与・慰謝料などがある場合
上記のような場合、将来、支払いがなかった際に、未払い分の回収の可能性を高めるため、公正証書を作成しておくことが好ましいといえます。
特に養育費については、子の年齢が低い場合、数年~十数年にわたって支払いの義務が続くことになります。最初は養育費の支払いが行われていても、数年たつと支払われなくなるというケースもあります。未払いが発生すると、公正証書を作成しておかなかった場合、裁判所の調停・審判などを利用して強制執行をできるようにした後、強制執行の手続を行うという、2つの手続をする必要が出てきます。公正証書を作成しておけば、裁判所の調停・審判の手続を省略し、いきなり強制執行の手続に入ることができます。
一方で、養育費の支払いがない場合や離婚と同時に財産分与や慰謝料の清算が終わる場合、公正証書を作成する意味は、ほぼありません。離婚届は市区町村に提出するもので、離婚届を提出することで公文書である戸籍の書き換えが行われますので、重ねて公正証書で離婚をした事実を残しておく必要はありません。
なお、注意が必要なこととして、公正証書は相手方の合意がないと作成することはできません。養育費の支払義務の有無や支払額について争いがある場合、公正証書を作成することはできません。合意が難しい場合は、家庭裁判所の調停の手続を利用しなければなりません。
- 離婚の際に公正証書を作成しておく必要が高いケースは以下のとおり。
・ 養育費の合意をする場合
・ 未払い(将来支払われる予定)の婚姻費用・財産分与・慰謝料などがある場合 - 離婚をする(という合意をする)だけであれば、公正証書を作成する必要はない。
- 離婚をする両当事者が合意をしなければ公正証書を作成することはできない。合意が難しい場合、家庭裁判所の調停・審判を利用する必要がある。
裁判所で調停・訴訟などを行う場合
時々、「家庭裁判所で離婚の調停をしているが、調停離婚が成立した後、さらに公正証書を作成したい」というご相談を受けることがあります。このご相談に対しては、(特別の事情がない限り)「公正証書を作成する必要はない」と答えることになります。
先ほどもお話をしたとおり、公正証書を作成する意味は、「金銭の支払いを目的とする債務」についての公正証書のうち、「債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載されたもの」については、裁判所の判決と同じように、強制執行を行うことができるという点にあります。家庭裁判所が作成した調停・審判・和解調書・判決などは、それを利用して強制執行をすることができるため、さらに公正証書を作成する意味は、全くありません。公正証書を作成するためには手間も費用もかかりますから、同じ効力を持つ書面を複数作成することはもったいないということになります。
このように、裁判所の手続を利用する場合は、公正証書を作成する必要はありません。公正証書を作成する必要が生じうるのは、裁判所で決まった内容を変更する場合など、特別な場合に限られます。
- 裁判所の手続によって離婚をする場合、さらに公正証書を作成する必要はない。
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