元配偶者が行方不明の場合、養育費などを請求することはできるのでしょうか?
離婚・家族関係の相談をお受けしていると、離婚後、連絡を取っておらず、相手方の行方が分からなくなっているというご相談をお受けすることがあります。このような事案では、調査により相手方の行方が分かることもありますし、調査をしても相手方の行方が分からないケースもあります。
このような事案において、どのような調査を行うのか、調査の結果行方が分からない場合にどのような手段をとることができるのか、解説します。
行方不明の元配偶者の住所を調査する方法
まず、住民票上の住所がわからないときの調査方法について、簡単に説明をさせて頂きます。
元配偶者と長い間連絡を取っておらず、今、どこに住んでいるのかわからないというようなケースでは、まず、元配偶者の住民票上の住所を調べていくことになります。元配偶者の住民票上の住所は、元配偶者の現在の戸籍の「附表」を取得することにより、住民票上の住所を調べることができます。ご自身の戸籍を取得すれば、離婚前の戸籍の本籍地が記載されていますので(「従前の戸籍」として記録されています。)、そこから元配偶者の戸籍をたどっていくことができます。元配偶者の現在の戸籍が判明すれば、その本籍地に対して「戸籍の附表」を請求することで、住民票上の住所を知ることができます。
戸籍の附票は、本籍地の市区町村において戸籍の原本と一緒に保管している書類で、その戸籍が作られてから(またはその戸籍に入籍してから)現在に至るまで(またはその戸籍から除籍されるまで)の住民票上の住所が記録されているものです。
このようにして、住民票上の住所を調べることができますので、まずは、その住民票上の住所に手紙を出してみるなどして養育費などの交渉を試みることになります。これに対して返事をしてくれれば、養育費などの手続を進めていくことができます。
しかしながら、以下のような理由により、返事を得ることができない場合もあります。
① 住民票上の住所地に住んでいることは明らかだが、返事をしてくれない
② 住民票上の住所地に住んでおらず、行方不明である(家はあるが、本人が住んでいないようなケースもあれば、家自体が存在しないようなケースもあります)
以上のような状況になってしまった場合、養育費などの請求について話し合いを進めていくことができません。このような場合、家庭裁判所の手続を利用するなどして対応をしていく必要があります。
なお、元配偶者が住民票上の住所地には居住していないが、電話番号や勤務先が判明しているような場合には、弁護士会や裁判所からの紹介制度を利用するなどによって相手方の居住場所が判明することもあります。詳しくは、弁護士にご相談ください。
元配偶者の住んでいる場所は判明したが、回答がない場合
元配偶者の住んでいる場所は判明したが、話し合いに応じない場合、養育費などの請求は家庭裁判所の調停・審判によって行うことになります。
裁判所からの呼び出しであれば反応するという方もいらっしゃいますので、呼び出しに反応し、家庭裁判所に出頭するなどしてくれば、調停手続きで話し合いを行うことができます。
家庭裁判所からの呼び出しを無視した場合の対応は裁判所によって様々です。何度か呼び出しをしてみることもあれば、審判に移行することもあります。相手方が家庭裁判所からの呼び出しを無視することが明らかな事案では、最初から審判で申し立てることもあり得ます(ただし、家庭裁判所の判断で調停に付すこともあります。)。
いずれにせよ、相手方が無視を続けた場合、最終的には、家庭裁判所が「審判」をすることになります。これは、家庭裁判所が、強制的に「〇〇円の養育費を支払え」などと命令する手続きです。
この「審判」に対して相手方が異議の申し立てをしてこなかった場合、「審判」は確定します。このような相手方の場合、通常、「審判」が確定した後も任意に支払いをしてくることは期待できないでしょうから、強制執行により回収することを試みることになります。強制執行の手続は、以下のリンク先をご覧ください。
相手方が無視を続けるような事案では、相手方の財産を特定することも難しく、養育費などの回収が困難となるケースも残念ながらあります。財産開示手続などが新設され、以前よりは養育費などを回収できる可能性は上がってはいますが、まだまだ不十分な部分もあります。手続きの負担がどの程度あるのか、回収の可能性があるのかなど、事前に弁護士に相談されることをお勧めします。
元配偶者が住民票上の住所地などに住んでおらず、行方不明の場合
相手方の行方が分からない場合、家庭裁判所の「審判」の手続を利用することになります。家庭裁判所の「調停」を利用することもできますが、相手方が手続きに出席してくれる可能性は極めて低いと思われますので、通常は、「審判」を選択することになります。
「審判」では、通常、家庭裁判所から相手方に申立書の複本などが送られます(「送達」といいます。)。相手方が行方不明の場合、この「送達」の手続きについて、特殊な方法を利用することにより、手続きを進めていくことになります。
「調停」や「審判」の手続は家事事件手続法という法律で定められています。家事事件手続法では、「送達」について、民事訴訟法の規定を準用する(使う)と定めています(家事事件手続法36条)ので、「送達」については民事訴訟法の規定に従うことになります。
「送達」(書面などの交付)は、原則として、裁判所に出頭したときに手渡しする(民事訴訟法101条)か住所・居所・営業所・事務所に郵送する方法によって行います(同法103条1項)。通常は、後者の郵送の方法によって行います。郵送は、「特別送達」という、書留郵便のような方法で行われます。本人が受け取らない場合、同居者などに渡すこともできます(同法106条1項)。
上記の方法で書類を渡すことができない場合、状況に応じ、以下のいずれかの方法を利用することになります。
① 書類を受け取るべき相手方がその場所にいることは明らかだが、書類の受け取りを拒否している場合
その相手方に対し、書留郵便で郵便を送付する方法を利用することになります(民事訴訟法107条1項)。この場合、郵便を送付した時点で送ったことになります(同条3項)。
② 書類を受け取るべき相手方がどこにいるかわからない
裁判所の掲示板に「書類を取りに来なさい」という呼び出し状を掲示する、「公示送達」という方法を利用することになります。公示送達に関する民事訴訟法の規定は以下のとおりです。
民事訴訟法110条(公示送達の要件)
1 次に掲げる場合には、裁判所書記官は、申立てにより、公示送達をすることができる。
一 当事者の住所、居所その他送達をすべき場所が知れない場合
二 第百七条第一項の規定により送達をすることができない場合
三 外国においてすべき送達について、第百八条の規定によることができず、又はこれによっても送達をすることができないと認めるべき場合
四 第百八条の規定により外国の管轄官庁に嘱託を発した後六月を経過してもその送達を証する書面の送付がない場合
2 前項の場合において、裁判所は、訴訟の遅滞を避けるため必要があると認めるときは、申立てがないときであっても、裁判所書記官に公示送達をすべきことを命ずることができる。
3 同一の当事者に対する二回目以降の公示送達は、職権でする。ただし、第一項第四号に掲げる場合は、この限りでない。
111条(公示送達の方法)
公示送達は、裁判所書記官が送達すべき書類を保管し、いつでも送達を受けるべき者に交付すべき旨を裁判所の掲示場に掲示してする。
112条(公示送達の効力発生の時期)
1 公示送達は、前条の規定による掲示を始めた日から二週間を経過することによって、その効力を生ずる。ただし、第百十条第三項の公示送達は、掲示を始めた日の翌日にその効力を生ずる。
2 外国においてすべき送達についてした公示送達にあっては、前項の期間は、六週間とする。
3 前二項の期間は、短縮することができない。
この「公示送達」を利用することができますので、相手方が行方不明の場合でも「審判」をしてもらうことは可能です。ただし、裁判所に「公示送達」を認めてもらうためには現地調査などをする必要があること、相手方が不動産を所有しているようなケースは別ですが、相手方が行方不明の場合、差し押さえる対象の財産を見つけることが難しいこと、といった問題もあります。
相手方が行方不明の事案では、ご自身で対応することは難しい部分もあるかと思いますので、弁護士に相談をされることをお勧めします。
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