親権はどのようにして決めるのでしょうか?決まるのでしょうか?
日本法の民法では、離婚をすると、父親か母親の単独親権となると定められています。
未成年の子がいる場合、離婚の際には、必ず、親権者を父親か母親のいずれか一方に決めなければなりません。親権者を決めないまま離婚をすることはできませんし、共同親権を選択することもできません。必ず、父母のどちらか一方を親権者に指定する必要があります。
そのため、未成年の子がいるご夫婦の場合、「親権者を父親にするか母親にするか」、激しく争われる事例が多くあります。子の引き渡し請求など「子の奪い合い」に発展するケースも多くあります。
ここでは、親権者の指定について、詳しく説明をさせて頂きます。
「親権」とは
まず、最初に、「親権」について説明をさせて頂きます。
民法818条(親権者)
1 成年に達しない子は、父母の親権に服する。
2 子が養子であるときは、養親の親権に服する。
3 親権は、父母の婚姻中は、父母が共同して行う。ただし、父母の一方が親権を行うことができないときは、他の一方が行う。
父母が結婚をしている間は、父母が、共同して、未成年(18歳未満)の子の親権を行使します。親権の内容は、以下のとおりです。
① 子の身上に関する権利義務
② 子の財産に関する権利義務
その内容は以下のとおりです。
① 子の身上に関する権利義務
民法820条(監護及び教育の権利義務)
親権を行う者は、子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う。
親権者は、子の監護・教育のため、子の居所を指定する権利(民法821条)、子を懲戒する権利(民法822条)、子の職業を許可する権利(民法823条)を有します。これらの権利は、「子の福祉」のために行使をしなければならず、濫用をしてはなりません。
② 子の財産に関する権利義務
民法824条(財産の管理及び代表)
親権を行う者は、子の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為についてその子を代表する。ただし、その子の行為を目的とする債務を生ずべき場合には、本人の同意を得なければならない。
親権者は、子の財産の管理について、広く代理権を持っています。こちらについても、「子の福祉」のために権利を行使しなければなりません。子の財産を親権者自身のために使い込むなどすることは許されません。なお、子と親権者の利益が相反する行為をしようとする場合には、家庭裁判所に「特別代理人」の選任の申立をする必要があります(民法826条)。
③ 親権の行使が不適切な場合
以上の親権の行使が不適切な場合、家庭裁判所の手続により、親権を喪失したり(民法834条)、親権を停止させられたり(民法834条の2)、財産管理権を喪失させられたり(民法835条)することがあります。また、特別代理人の選任をすることなく、子と親権者の利益が相反する行為を親権者が行った場合には、原則として、その行為は無効となります。
父母の合意による親権者の決定
父母が離婚をした場合の親権について、民法は以下の規定を置いています。
民法819条(離婚又は認知の場合の親権者)
1 父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その一方を親権者と定めなければならない。
2 裁判上の離婚の場合には、裁判所は、父母の一方を親権者と定める。
3 子の出生前に父母が離婚した場合には、親権は、母が行う。ただし、子の出生後に、父母の協議で、父を親権者と定めることができる。
4 父が認知した子に対する親権は、父母の協議で父を親権者と定めたときに限り、父が行う。
5 第1項、第3項又は前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、父又は母の請求によって、協議に代わる審判をすることができる。
6 子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、子の親族の請求によって、親権者を他の一方に変更することができる。
上記第1項のとおり、父母が協議離婚をする場合、父母の協議で、未成年者の親権者を父親又は母親と定めなければなりません。父親と母親が離婚をする際、「未成年者の親権者を父親とする」又は「未成年者の親権者を母親とする」という合意をすることができれば、未成年者の親権者は、その合意のとおり、父親又は母親になります。
親権者を決めるにあたり、役所や家庭裁判所の許可などは必要ありません。父母両名の合意がある限りは、「親権者として適切かどうか」の審査は行われません。協議離婚の場合、離婚届の中の「夫が親権を行う子」又は「妻が親権を行う子」の欄に未成年の子の氏名を書き入れ、提出をするだけで親権を指定することができます。(好ましいかどうかは別にして、法律上は)きょうだいの親権者を別々にすることも可能です。
なお、何度もお話をしているところではありますが、日本の民法が適用される離婚では、未成年の子がいる場合、父親または母親の、どちらか一方を親権者として定めることが必要になります。未成年の子の親権者が決まっていない状態では、離婚届を受け取ってもらうことはできません。父母と子の同意があったとしても共同親権とすることはできませんし、父母の両方が親権者にならないという合意をすることもできません。父母が「祖父母を親権者とする」と約束してもその約束は無効ですし、「祖父母を親権者とする」と記載した離婚届を受け取ってもらうことはできません。
時々、「離婚届を作成して相手方に渡したところ、親権者の欄を勝手に埋められ、又は、勝手に書き換えられ、提出されてしまった」というご相談を受けることがあります。このような離婚届は、親権者についての合意が欠けているため無効となるはずですが、通常、市区町村役場は合意がないことを知ることができないため、有効な離婚届として受理されてしまうことがあります。
このように、親権者の欄について書き換えられるなどの可能性がある場合には、まず、自分の署名をした離婚届を相手方に渡すことがないよう、注意が必要です。離婚届を相手方に渡してしまったような場合には、「離婚届不受理申請」をすべきです。
本来無効であるはずの離婚届を提出されてしまった場合には、離婚の無効を争うか、親権者変更の申立てを検討していくことになります。しかしながら、これらの手続は簡単な手続きではありません。裁判所は、離婚の無効や親権者の変更を、簡単には認めません。
このような問題がありますので、特に親権者について争いが起きうる事案では、離婚届を作成して相手方に渡すということはされないよう、ご注意ください。
なお、以上の説明は、日本の民法が適用される離婚の場合の説明になります。日本に居住されている方であっても、外国籍の方の離婚の場合は、扱いは異なることがあります。例えば、ドイツ国籍の方同士の離婚の場合は、通常、夫婦両名とも日本に居住されていてもドイツ法が適用されます。ドイツ法が適用される離婚の場合、離婚後も共同親権となることがあり得ます。この場合、日本の裁判所の離婚調停を利用した場合もドイツ法が適用されますので、外国籍の方の場合は、日本の裁判所の手続きを利用した場合であっても、共同親権となることがあり得ます。
- 日本の民法が適用される離婚では、未成年の子がいる場合、父親または母親の、どちらか一方を親権者として定めることが必要になる。
- 離婚の際、父母の合意が整うのであれば、その合意で親権者を定める。
親権者の指定について、父母の合意が整わない場合
① 協議離婚の場合
未成年者の親権者の指定について父母の合意が整わない場合、協議離婚を成立させることはできません。この場合、離婚を成立させるためには、家庭裁判所の離婚調停や離婚訴訟の手続を利用することになります。
なお、家庭裁判所は、親権のみを定める調停・審判・訴訟を用意していません。親権について争いがある場合、利用する手続きは「離婚調停」(より正確に言うと、夫婦関係調整調停)、「離婚訴訟」となります。ただし、離婚をすることについて合意がある場合、よほどの事情がない限り、裁判所は、「離婚をすべきかどうか」という点は争点とはしません。「離婚については合意しているが、親権者の指定についてのみ争っている」という事案の場合、利用する手続きは「離婚調停」、「離婚訴訟」ですが、実際の審理は「親権者を父母のどちらにするか」という点に集中して行われることが通常です。
それでは、親権について争いがある場合、裁判所は、どのように手続きを進めていくのでしょうか?
親権者について争いのあるケースでは、通常、裁判官の命令により、家庭裁判所調査官が親権者の指定に関する調査を行います。家庭裁判所調査官の調査について、詳しい説明は以下のリンク先をご覧ください。
家庭裁判所調査官による調査が行われた場合、家庭裁判所調査官はその調査結果を「調査報告書」にまとめます。裁判所は、この調査報告書に基づき、通常、以下のように対応します。
② 離婚調停の場合
通常、調停委員や調停を担当する裁判官、家庭裁判所調査官により、調査結果に基づいて親権者を決めるよう、促されます。ただし、調停の場合、この説得に応じる義務はありません。調停委員や裁判官・家庭裁判所調査官の説得を拒否することもできます。家庭裁判所調査官の調査の結果を踏まえても親権者について合意が成立しない場合、調停は不成立になります。
なお、離婚調停の中で親権者の指定のみが争点となっている場合、裁判官の判断により、「調停に代わる審判」が行われることがあります。この「調停に代わる審判」では「未成年者の親権者を父/母とすべき」との判断が行われます。
ただし、この「調停に代わる審判」は他の家事事件における「審判」とは性質の異なるものになります。「調停に代わる審判」は、父母の両方に郵送されます。父母の両方が、「調停に代わる審判」を受け取った日の翌日から14日以内に「異議」を出さなければ、この「調停に代わる審判」は「確定」し、「調停に代わる審判」に書かれた内容のとおりの離婚が成立します。一方、この14日の間に父又は母の、どちらか一方が「異議」を出せば、この「調停に代わる審判」はなかったことになります。通常の「審判」のように「高等裁判所・最高裁判所でさらに争われる」というのではなく、「調停に代わる審判」自体がなかったことになります。「調停に代わる審判」に異議が出た場合、調停は「不成立」となり終了します。
③ 離婚訴訟の場合
多くの場合、裁判官は、家庭裁判所調査官の調査の結果を踏まえ、父母に対し、「説得」を試みます。父母の両方がこの「説得」に応じた場合、「和解」により離婚が成立します。「和解」による離婚の効果は、「調停成立」による離婚の場合とほぼ同じです。
裁判官の「説得」が行われても父母の合意が成立しない場合、最終的には、裁判所が「判決」により「未成年者の親権者を父/母を親権者と指定する」という判断を出します。この判断は、よほどの事情がない限り、家庭裁判所調査官の調査の結果を踏まえたものとなります。家庭裁判所調査官が、調査を踏まえ、調査報告書において「父/母を親権者と指定することが望ましい」との意見を出し、裁判官は、よほどの事情がない限り、この意見にしたがって判決を出すことになります。
なお、離婚調停の際に実施された家庭裁判所調査官の調査の結果は、離婚訴訟でも影響します。事案によっては、離婚訴訟で再度の家庭裁判所調査官の調査を実施することなく、離婚調停の際の調査結果を踏まえ、判決が出されるケースもあります。「離婚調停の際の家庭裁判所調査官の調査の結果には従う義務がないので、離婚訴訟になってから争えばいい」と考えるのは危険です。親権について判決になることが予想される事案では、離婚調停の段階から判決になることを踏まえて、家庭裁判所調査官による調査に臨む必要があります。
- 父母の協議により親権者を決定することができない場合、家庭裁判所の「離婚調停」や「離婚訴訟」により、親権者を決定する。
- 家庭裁判所の手続により親権者を定める場合、通常、家庭裁判所調査官による調査が行われ、家庭裁判所調査官の「意見」が結論に大きな影響を与える。
裁判所が親権者を指定する基準
裁判所は、「親権者をどちらにした方がより子の利益にかなうか」(「子の福祉」に資するか)を基準に、親権者を指定します。それでは、この「子の福祉」はどのようにして判断されるのでしょうか。
何が「子の福祉に資する」かの基準ついて、明確な基準を示した判決はありませんが、裁判所は、一般的には、主に以下の要素を重視して「子の福祉に資するか」と判断する傾向にあります。
① 父母の同居中の子の監護状況はどのようなものであったか。父母のどちらが、どの程度、子の監護、養育にかかわってきたか。
② 父母の別居後に監護を行っているのは誰か。現在の監護状況に問題はあるか。
③ (子が自らの意思を示すことのできる年齢になっている場合は)子の意向はどうか。
以上のどの要素を、どれだけ考慮するかは、事案によって様々です。一般的には、子の年齢が高ければ高いほど、③が重視される傾向にあります。また、父母が別居をして時間が経っていないケースでは①を、父母の別居後に時間が経っているようなケースでは②を重視する傾向にあります。
① 父母の同居中の子の監護状況
裁判所は、父母それぞれから「子の監護に関する陳述書」を提出させたり、家庭裁判所調査官による聞き取り調査などを行うことにより、父母の同居中の監護状況を確認します。
この家庭裁判所調査官の調査に加え、親権を争う父母は、それぞれ
- 父母それぞれが、裁判所で、裁判官の前で証言を行う
- 母子手帳、幼稚園・保育園の連絡帳など、子の監護状況がわかる証拠があればこれらを証拠として裁判所に提出する
- 家庭裁判所調査官の調査に事実関係の誤りがある場合には、誤りを指摘し、裏付けとなる証拠を提出する
などして、裁判官を説得することになります。
なお、かつては「母親優先の原則」があるといわれてきました。裁判所が「父母の同居期間中は、母親が育児をするものだ」との目線で事件を見ているのではないかとも指摘されていました。しかしながら、最近は、「父母の同居中に主として子を監護・養育してきたのは父親である」と認定され、父親を親権者に指定するケースも出てきています。「父母の両方が育児にかかわってきた」と認定されるケースも増えています。父母の同居期間中に、父母それぞれが、どの程度、どのように、育児にかかわってきたかが重要となります。
② 別居後に監護を行っているのは誰か・その監護状況に問題はあるか
既に父母が別居をし、子が父母のどちらか一方と生活をしている場合、家庭裁判所調査官は、現在の子の監護状況に問題があるかどうかを調査します。父母からの聞き取りにより調査をすることもあれば、家庭裁判所調査官が子の住んでいる家を訪問することもあります。事案によっては、子が通っている幼稚園・保育園・小学校などから聞き取りを行うこともあります。
この②の基準について、「現在の監護状況に問題がある」と認定されるケースは少ないように思われます。現在の監護状況に一定程度問題があるケースでも「監護状況に問題がないわけではないが、これを変更する必要までは認められない」との意見になることが多いように思われます。そうすると、親権が争われる場合、「現時点で一緒に生活をしている側が有利になるのではないか」ということになります。
実際のところ、現在の裁判所の運用を考えると、親権について争いが生じた場合には、別居後に子を監護している側が有利です。特に別居期間が長くなっていると、裁判所が「現在の監護状況を変更すべき」との判断をするケースは、あまりないように思われます。そうすると「子を連れ去った者勝ち」ということになってしまいます。
このような「子を連れ去った者勝ち」とならないようにするため、家庭裁判所は「子の引き渡し」の手続を準備しています。子と別居しておられる側が親権を取得するためには、この「子の引き渡し」の手続を検討する必要があります。子の引き渡しは詳しくは以下のリンク先をご覧ください。
「子の引き渡し」の手続は、早く申し立てることができるのであれば、できる限り早く申し立てるべきです。相手方による子の監護の実績が積み重ねられれば重ねられるほど、子の引き渡し請求は認められにくくなっていきます。子と別居せざるを得ない状況が起きてしまった場合には、できる限り早く弁護士に相談され、必要な手続きを選択し、対応することが重要です。
③ 子の意向はどうか
家事事件手続法65条【家事審判の手続における子の意思の把握等】
家庭裁判所は、親子、親権又は未成年後見に関する家事審判その他未成年者である子(未成年被後見人を含む。中略)がその結果により影響を受ける家事審判の手続においては、子の陳述の聴取、家庭裁判所調査官による調査その他の適切な方法により、子の意思を把握するように努め、審判をするに当たり、子の年齢及び発達の程度に応じて、その意思を考慮しなければならない。
以上のとおり、家庭裁判所は、子が影響を受ける決定をする場合には、子の意思を把握し、その意思を考慮しなければならないとしています。親権者を定めるにあたっても、子の年齢や発達状況にもよりますが、ある程度、会話ができる子であれば、子の意向が、相当程度、判断に影響を与えます。また、15歳以上の子については、審判・訴訟の際に子の意見聴取を必ず行わなければならないこととなっています(家事事件手続法169条2項、人事訴訟法32条4項など。)。
子の意思の調査の方法は、事案によって様々ですが、裁判官が、直接、子から意見を聞くことは珍しく、通常は、家庭裁判所調査官が子の意見聴取を行います。調停段階ですでに家庭裁判所調査官による調査が行われている場合などは、離婚訴訟の段階では書面での意向調査となる場合もあります。
家庭裁判所調査官による子の意向の調査は、家庭裁判所で行われる場合と、家庭裁判所調査官が子の自宅を訪問して行う場合があります。家庭裁判所で意向調査を行う場合も、子が緊張しないように、家庭裁判所に児童館が設置されている場合はそこで面談を実施するなどの配慮が行われます。
裁判所は、上記の要素を検討したうえで、親権者についての判断を下します。その判断においては、何度もご説明をしているとおりですが、家庭裁判所調査官の意見が強く反映されます。
- 裁判所は、「親権者をどちらにした方がより子の利益にかなうか」(「子の福祉」に資するか)を基準に、親権者を指定する。
- 親権者の指定にあたり、裁判所が重視する要素は、一般的に以下のとおりである。
① 父母の同居中の子の監護状況はどのようなものであったか。父母のどちらが、どの程度、子の監護、養育にかかわってきたか。
② 父母の別居後に監護を行っているのは誰か。現在の監護状況に問題はあるか。
③ (子が自らの意思を示すことのできる年齢になっている場合は)子の意向はどうか。
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