株式会社を経営していた方が亡くなりました。相続人はこの会社を引き継ぐことになるのでしょうか?

 被相続人(亡くなられた方)が株式会社を経営されていた場合、その会社も相続の対象となることがあります。この記事では、どのような場合に、どのようにして株式会社を相続するのか、何が相続の対象になるのか、相続をするにあたり気を付けなければならないのはどのようなことなのか、説明します。

株式会社は相続の対象になるのか?

① 株式会社の財産や負債は相続の対象となるのか

 法律上、株式会社は「法人」とされ、亡くなられた方(被相続人)とは別の人格として扱われます。株式会社は、法律上は1人の「人」と同じように扱われますので、株式会社が自身が資産を持つことができますし、株式会社自身が借金をすることもあります。この株式会社の資産や負債は、被相続人とは別の「人」の資産や負債となりますので、被相続人を相続しても、会社の資産や負債を引き継ぐことにはなりません。

 これは、被相続人が、その株式会社の唯一の株主であったとしても同様です。株式会社といっても、実質は個人で事業をしているのと変わりはなく、株式会社の財産と個人の財産が混ざっているというケースもよくあるところです。しかしながら、このような場合であっても、相続の場面では、被相続人個人の財産と株式会社の財産は区別されます。被相続人個人の財産や負債は相続の対象になりますが、株式会社の財産や負債は、それ自体は相続の対象とはなりません。この点には注意が必要です。

 また、特に負債については注意が必要です。先ほどお話ししたとおり、株式会社の負債は相続の対象とはなりません。株式会社に負債があったとしても、相続放棄をする必要はありません。しかしながら、特に株式会社の代表者の方は、個人で、株式会社の負債の保証人になっているケースが多くあります。この場合、被相続人個人の保証債務は、相続の対象となります。株式会社に財産があり、負債を返済できるケースなどでは問題はありませんが、株式会社が債務超過の状態などにあり、保証人が支払いを行わなければならないようなケースでは、相続放棄をしなければ、多額の保証債務を相続してしまうということにもなりかねません。事業をしていた方を相続する場合には、保証債務の相続についても十分に注意をする必要があります。

② 「株式」は相続の対象となるのか

 「株式」は、株式会社に出資をした方に対して発行される有価証券です。株式を有していると、株式会社に対して株主総会の議決権などを行使することができます。

 この「株式」は相続の対象となります。上場会社の株式なども相続の対象になりますが、被相続人が100%の株式を持っている、実質個人事業の株式会社の株式も相続の対象となります。被相続人が株式会社の100%株主の場合は、事実上、相続によってその株式会社そのものを引き継ぐということになります。

 なお、株式は財産として扱われますので、相続した株式の価値やその他の財産の価格によっては、相続税が課されることがありますので注意が必要です。相続した株式の価格をどのように算定するかについてはルールが決められていますので、税理士に相談されることをお勧めします。

③ 株式会社の取締役の地位は相続の対象となるのか

 「株式」が相続の対象となる一方で、「取締役」などの役員の地位は、相続の対象となりません。この役員の地位は、被相続人と会社との間の「委任契約」によるものとされていますが、民法上、委任契約は、契約の当事者が亡くなると終了することになっています(民法653条1号)。

 なお、被相続人から引き継いだ株式の数量によっては、その株主の権利を行使して、自身を取締役などに選任するよう、手続きをとることができる場合もあり得ます。ただし、この場合も、被相続人から取締役などの地位を相続したというわけではなく、被相続人と株式会社との関係が一度終了したうえで、新たに相続人が株式会社の役員に就任するという流れになります。

株式会社の相続が発生する場合に気を付けなければならないこと

① 何が問題となるのか

 先ほどお話ししたとおり、株式は相続の対象となります。相続のとき、相続人が複数いれば、株式は遺産分割の対象となります。被相続人が全ての株式を所有しているような場合、被相続人の存命中は被相続人1人の判断で会社の意思決定をすることができます。しかしながら、相続が発生し、その株式が複数の相続人に分散をしてしまうと、会社の意思決定がスムーズにできなくなる危険があります。会社の意思決定は、内容によって、株主の過半数の賛成が必要、株主の3分の2の賛成が必要などと会社法に決められています。相続人間での対立が激しいような場合には、株主間での意見が対立してしまい、何の意思決定もできなくなるということにもなりかねません(例えば、相続人2人が対立してういて、それぞれ50%の株式を保有しているような場合には、何をするにしても過半数の同意を得ることができず、会社の意思決定がストップしてしまう可能性があります。)。

 複数の相続人の関係が良ければ、遺産分割の手続などでスムーズに会社の承継をすることができるでしょうが、相続人がもめてしまった場合、会社の存続に影響が出てしまうこともあります。このような事態を避けるため、生前から対策をしておくことが必要になります。

② 遺言の作成

 生前に遺言を作成することにより、特定の財産を特定の方に引き継いでもらうよう、指定をすることができます。株式会社の跡継ぎが決まっている場合、自身の保有している株式の承継先をこの跡継ぎの方に指定するなどして、会社が機能不全になることを防止することが考えられます。遺言に関する説明は、以下のリンク先をご覧ください。

 遺言を作成する場合の注意点として、「遺留分への対策」の問題があります。配偶者・子・直系尊属(親など)には「遺留分」という「最低限相続できる財産」が決められています。この遺留分を無視して会社の跡継ぎに自身の全財産を引き継がせた場合、相続発生後、他の相続人が遺留分を請求することにより紛争が発生してしまう可能性があります。このような事態を避けるため、株式会社の跡継ぎに会社の株式を相続させ、その他の財産は他の相続人に相続させるなどの工夫をする必要があります。遺言を作成する際に、専門家にご相談されるなどして、問題が発生しないよう、配慮することが重要です。

③ 生前贈与の活用

 会社の跡継ぎの方が既に決まっているような場合、生前から相続対策として、株式を徐々に跡継ぎの方に譲渡をしておくことも考えられます。生前にどのような贈与を行うかは、贈与をする方と贈与を受ける方との間の契約で自由に決めることができます。ただし、贈与税の問題が発生しますので、税理士などの専門家とよくご相談の上、手続きを進められることをお勧めします。

④ 相続税の問題

 先ほどお話ししたとおり、株式も財産であるため、株式を引き継いだ相続人に相続税の納付の義務が発生します。株式を引き継いだ相続人が相続税を支払うことができず、株式を手放すことになってしまうと、会社の経営権に大きな影響を与える危険があります。遺言を作成する際には、この相続税の問題もクリアできるよう、税理士などの専門家に相談しつつ、対策を取っておくことが必要です。

株式会社の相続を拒否したい場合にはどうすればよいか?

 先ほどお話ししたとおり、株式会社の財産や負債、取締役などの役員としての地位は相続の対象とはなりませんので、これらを「相続をしたくない」場合、特に対応をする必要はありません。一方で、株式に関しては相続の対象となりますので、相続を拒否する場合には、必要な手続きをとる必要があります。例えば、被相続人が株式会社の100%の株式を保有しており、自身が唯一の相続人である場合には、相続によりその会社の全体を相続することになりますので、この会社を引き継ぎたくない場合には、必要な手続きをする必要が生じます。

 株式も相続財産の一部であるため、「相続放棄」により、相続を拒否することができます。相続放棄の詳しい説明は、以下のリンク先をご覧ください。

 ただし、相続放棄を選択する場合「株式会社のみを相続しない」という選択をすることはできないことに注意が必要です。相続放棄をすると、株式会社のみではなく、被相続人の全ての財産や負債を引き継がないことになります。相続財産の中に株式が含まれており、この株式を引き継ぐと会社の経営権も引き継ぐようになるような事案では、被相続人本人の資産や負債の状況に加え、株式会社の資産や負債の状況、経営を引き継ぐかどうかなどを考慮して相続放棄をするか、決定しなければなりません。調査に時間がかかる場合には、3か月以内に手続きをとることが難しいとして、熟慮期間の延長の手続を行うことも考えられます(相続放棄の期間制限、熟慮期間の延長の手続の方法などは、上記のリンク先をご覧ください。)。

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