遺産分割についての話し合いがまとまらない場合、どのように対応すればよいのでしょうか?

 遺産分割は、相続人全員の話し合いによって行います。

 しかしながら、そもそもご兄弟の仲が悪い場合や、誰が自宅を取得するかについて争いがある場合など、話し合いでは解決しないこともあるでしょう。また、一部の相続人の方と連絡がつかないということもあり得ます。このように相続人の間で合意が整わない場合には、家庭裁判所の「調停」手続きを利用することができます。

 このページでは、家庭裁判所の遺産分割の調停手続きについて解説します。

遺産分割調停の申立て

 遺産分割についての当事者間での話し合いがまとまらない場合、家庭裁判所の遺産分割の調停を利用することができます。

① どの家庭裁判所に申立てをするのか

 遺産分割調停を申し立てる裁判所は、原則として相手方となる共同相続人のどなたか1名が居住している土地を管轄する家庭裁判所となります。相手方となる相続人が複数いらっしゃる場合、どの相手方の住所地の家庭裁判所に申し立ててもよいこととなっています。

② 申立ての方法

 遺産分割調停は、管轄のある家庭裁判所に遺産分割の申立書と必要書類(戸籍謄本・財産目録など)を提出して行います。申立手数料は1200円で、収入印紙により支払います。他に各家庭裁判所の指定する切手を収める必要があります。

 申立書の書式や必要な添付資料などの情報は、各家庭裁判所のウェブサイトか、家庭裁判所の窓口で得ることができます。なお、特に必要な切手の枚数などは、家庭裁判所によって微妙に異なりますので、必ず申立て予定の家庭裁判所にお問い合わせをされるようにして下さい。

③ 調停の中で話し合いがまとまらない場合

 遺産分割の調停でも話し合いがまとまらない場合は、遺産分割の審判が行われることとなり、家庭裁判所の裁判官が遺産の分割方法を決めることになります。遺産分割の審判に不服がある場合は、遺産分割の審判を受け取った日の翌日から2週間以内に不服申立(即時抗告)をすることとなり、高等裁判所で審理が行われることとなります。2週間以内に即時抗告をしない場合、審判は確定します。

 なお、遺産分割の調停・審判では、遺言がない場合、法定相続分に従った分割をする方向で調停を進めることが原則です。「長男がすべてを相続する」等の主張は、通常、認められませんので、ご注意ください。

  • 遺産分割についての話し合いがまとまらない場合、家庭裁判所の遺産分割の調停を利用することができる。
  • 遺産分割調停は、相手方となる共同相続人のうち、誰かが住んでいる土地を管轄する家庭裁判所に申し立てを行うことになる。

遺産分割調停の流れ

 一般的に、家庭裁判所の調停は、申立書を提出してから1~2か月程度で初回の調停期日が入り、その後も1~2か月に1回程度、調停の期日が入ります。その後は調停の成立するか不成立となるまで調停が続きます。何回期日を重ねることになるかは、事案によって異なります。遺産分割では争点も多くなりがちですので、解決まで1年以上かかることも珍しくありません。また、遺言書の効力が争われている場合、だれが相続人であるか争いがある場合、どこまでが遺産に含まれるのか争いがある場合、使途不明金の問題がある場合などは、話し合いでの合意が困難になると遺産分割調停とは別の手続で確定させなければならなくなることもあり、さらに時間を要することとなります。解決までに数年以上かかる事案もあります。

 遺産分割の調停の期日には、原則として、相続人全員が家庭裁判所に出頭することになります。ただし、家庭裁判所が認めた場合は、電話により調停に出頭することができます。弁護士に事件処理を依頼している場合で、遠方の家庭裁判所に管轄がある場合、調停期日には弁護士の事務所に来ていただき、弁護士の事務所から電話で調停期日に出頭するということが一般に行われています。また、遺産分割の方法について特に意見がない場合などは、家庭裁判所に書面で回答をすることにより、手続きを進めてもらうことができる場合もあります。一般的に、調停の手続は裁判に比べて柔軟に対応してもらうことができます。事情に応じ、家庭裁判所と協議することになります。

 なお、現在、ウェブ会議システムを利用した調停の実施の検討も行われており、今後はウェブによる調停参加もできるようになるものと思われます。

  • 一般的に、家庭裁判所の調停は、申立書を提出してから1~2か月程度で初回の調停期日が入り、その後も1~2か月に1回程度、調停の期日が入る。
  • 原則として、調停は現地出席となる。ただし、電話での出席や意見書の提出などの方法により対応することが認められる場合もある。

遺産分割の調停では何を話し合うのか?

① 一般的な進め方

 遺産分割の調停では、「遺産をどのように分けるか」についての話し合いが行われます。

 一般的には、以下の内容を話し合うことになります。

 ㋐ 遺産分割の当事者の確定

 まず、最初に、遺産分割の当事者が誰になるのかを確定します。遺産分割は、当事者全員が参加をしなければ有効に成立しませんので、最初に当事者を確定する必要があります。原則、戸籍で確認を行いますが、相続分の譲渡がある場合などは、当事者の確定が問題となることがあります。

 話し合いによって遺産分割の当事者を確定することができない場合、民事訴訟などによって遺産分割の当事者を確定する必要があります。

 ㋑ 遺産の範囲を確定させる

 遺産分割の調停において話し合いの対象となる遺産の範囲を確定します。遺産分割の対象となる財産は、原則として、以下の要件を満たす財産となります。

  • 相続開始時(被相続人が亡くなられた時点)で、被相続人に帰属していた財産であること
  • 遺産分割を行う際にも存在している財産であること
  • 遺言・遺贈などにより取得者が決まっている財産ではないこと(未分割財産であること)
  • 積極財産(プラスの財産)であること(負債は、自動的に分割されます)

 遺産分割の対象となる財産について争いがある場合、民事訴訟などによって遺産の範囲を確定させる必要があります。

 ㋒ 遺産を評価する

 ㋑で確定した遺産について、その財産の価値を算定します。預貯金などは価値の算定は簡単ですが、不動産や非上場会社の株式などは、鑑定を行うなどして価値を確定させる必要があります。

 ㋓ 各相続人の取得額を調整する

 各相続人が、どの割合で遺産を受け取るかを決定します。特別受益や寄与分が問題となる場合は、ここで調整を行います。

 ㋔ 具体的に財産を分ける

 ㋓で決まった割合に応じ、具体的に、誰に、どの財産を分けるかを確定させます。例えば、遺産の中に不動産がある場合、その不動産を誰が取得するのか、その代償金をどうするのかなどについて決めていきます。

② よく問題となるもの

 この他、遺産分割の調停では、しばしば、遺産分割の様々な前提問題について争いがおこることになります。厳密にいうと、これらは遺産分割の調停で話し合う対象ではありません。ただし、相続人全員が話し合うことに合意をした場合には、遺産分割の前提問題についても遺産分割調停の中で取り扱うことができます。その場合でも、相続人間で合意が成立しないときは、別途、民事訴訟などによって解決するしかないことになります。

 具体的な内容としては、以下のようなものがあります。

Q
遺言がありますが、この遺言は無効だと考えています。
A

遺産分割調停の中では、当事者全員が遺言が無効であることに合意をした場合を除き、遺言の有効性について判断をすることができません。被相続人が遺言を作成した当時に判断能力がなかった可能性がある場合など、遺言の有効性について争いがある場合には、別途、地方又は簡易裁判所に民事訴訟(遺言無効確認訴訟等)により遺言の有効性を争うことになります。遺言の有効・無効が確定した後、遺産分割の必要がある場合で、話し合いがまとまらない場合は、遺言の無効が確定した後に遺産分割の調停を利用することが可能です。

Q
遺言の内容があいまいで解釈に争いがあります。
A

遺言の有効性と同じく、遺産分割調停の中で遺言の解釈について判断をすることはできません。遺言の解釈について関係者の間で争いがある場合には、地方又は簡易裁判所に民事訴訟を提起して判断をしてもらう必要があります。

Q
遺産分割協議書が存在しますが、その効力に争いがあります。
A

署名・印鑑を偽造されて虚偽の遺産分割協議書がされた場合など、遺産分割協議書の有効性が問題となることがあります。こちらについても遺産分割調停の中で判断をすることはできません。地方又は簡易裁判所に民事訴訟を提起し、遺産分割協議書の有効性を判断をしてもらう必要があります。

Q
ある財産が遺産なのかどうかについて争いがあります。
A

ある財産が遺産なのかどうかという問題(例えば、ある預貯金の名義人は被相続人となっているが、実際には第三者の財産であるとの主張が出てくる場合など。)も、争いがある場合には、遺産分割調停で判断をしてもらうことはできません。地方又は簡易裁判所に民事訴訟を提起して判断をしてもらう必要があります。

Q
相続人の1人が、被相続人の死亡直前、又は被相続人の死亡後に勝手にお金を引き出してしまいました。
A

使途不明金の問題は、遺産分割調停の中でも主張をすることは可能です。ただし、相続人間で合意が成立しそうもない場合には、遺産分割調停とは別に地方又は簡易裁判所に民事訴訟を提起し、訴訟の中で使途不明金の問題を判断してもらうことになります。

 民事訴訟では、「被相続人が自分自身で引き出した。」、「被相続人以外の方がお金を引き出したが、被相続人の指示により引き出した。」などの主張が出されることになります。裁判所は、これらの主張について、提出された証拠から、使途不明金が発生しているか、判断をすることになります。

Q
相続人のうちの1人が葬儀費用を支出しました。他の相続人に請求することはできますか?
A

一般的に、葬儀費用は、喪主が負担すべきものと考えられています。遺産分割協議・調停の中で他の相続人が葬儀費用(の一部)の負担を認めた場合などは、葬儀費用を負担したことを遺産分割の一つの事情して考慮することは可能ですが、争いがある場合は、地方又は簡易裁判所の民事訴訟において、葬儀費用の負担者を判断してもらうことになります。一般に、特別の合意がない限り、喪主の負担と判断される傾向にあります。

 香典についても、喪主に対する贈与なのか、相続人(遺族)全体に対する贈与なのかなどが争われることがあります。こちらについても相続人全員が合意をすれば遺産分割協議・調停の中で処理することが可能ですが、争いがある場合、地方又は簡易裁判所の民事訴訟において、香典の趣旨を確定することが必要になります。

Q
相続人のうちの1人が遺産の管理費用を支出しました。他の相続人に請求することはできますか?
A

遺産の管理費用は遺産そのものではないと考えられています。そのため、厳密にいうと遺産分割の対象とはなりません。ただし、実務上は、共同相続人全員の合意が得られるのであれば、遺産分割調停の中で調整が行われます。一方で、遺産の管理費用の額や負担割合などについて争いがある場合には、地方又は簡易裁判所の民事訴訟によって解決をすることになります。

 なお、遺産から収益が発生した場合(遺産である不動産から賃料が発生した場合や遺産である株式から配当金が発生した場合など。)にも誰がこの収益を取得するかについて、管理費用の負担と同じような問題が発生することがあります。この場合も共同相続人全員の合意が得られるのであれば遺産分割調停の中で調整を行えますが、争いがある場合は地方又は簡易裁判所の民事訴訟によって解決をすることになります。

Q
お墓・位牌などについても遺産分割の対象となるのでしょうか?
A

民法は、「系譜(家系図など)、祭具(位牌・仏壇など)及び墳墓(墓石・墓碑など)の所有権は、(中略)慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する」(民法897条1項。()内は記事執筆者が追加。)と定めており、原則として、遺産分割の対象とはなりません。遺骨・ご遺体も遺産分割の対象にはならないとされています。これらは「祖先の祭祀を主宰するべき者」が引き継ぐこととなります。

 「祖先の祭祀を主宰するべき者」を話し合いで決めることができない場合には家庭裁判所の調停を利用することができます。祭祀承継者を指定することを求める調停は、遺産分割調停とは別の手続となります。祭祀承継者を指定することを求める調停・審判では、家庭裁判所は、お墓の掃除をしているのは誰か、仏壇・位牌を管理しているのは誰か、供養料を支払っているのは誰かなどの事情から祭祀承継者を指定することになります。

 上記以外にも、様々な点が問題となる場合があります。それらについても、処理としてはほぼ同じであり、遺産分割調停の中で話題にすることはできるが、相続人間で合意が整わない場合には、別の手続を利用してください、ということになります。

具体的にどのように遺産を分割するのか?

 法律上、「このように分割をしなければならない」という規定はありません。そのため、遺産の分割方法については家庭裁判所が裁量で決めることになります。一般的には、以下のいずれかの方法によって分割されることが多いですが、共同相続人などの当事者の合意があれば、自由に分割をすることが可能です。

 家庭裁判所の手続で分割をする場合は、通常は、以下のいずれかの方法のうち、適切と思われる分け方を家庭裁判所が裁量で決めることとなります。

  • 現物分割 財産形状や性質を変更することなく、そのまま相続人に引き継がせる方法です。
  • 代償分割 一部の相続人が相続財産を取得した上で、相続財産を取得した相続人が、他の相続人に対し、自身が多めに取得した価値分の債務を負わせるという方法です。
  • 換価分割 相続財産を売却し、その利益を分けるという方法です。
  • 共有分割 相続人で相続財産を共有するという方法です。なお、この分割方法で共有となったものを分割する場合は、遺産分割の手続ではなく、共有物分割訴訟を行うことになります。
  • 遺産の分割方法に制限はなく、争いがある場合には、最終的には家庭裁判所が裁量で分割方法を定める。
  • 一般的には、現物分割・代償分割・換価分割・共有分割のいずれかの方法で分割を行う。

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