財産分与の分与額はどのように決まるのでしょうか?・・・清算、扶養、慰謝料
「財産分与」は、離婚の際に、夫婦の一方が、他方に対し、一定の財産を分けるよう、求めることができるという制度です。この「財産分与」において、具体的にいくらの額を分けるべきなのかを決めるにあたっては、一般的に以下の3つの要素を考慮するとされています。
① 清算的要素 夫婦が共同生活を送る中で形成した財産の公平な分配
② 扶養的要素 離婚後の他方の生活保障
③ 慰謝料的要素 離婚の原因を作ったことへの損害賠償
これらはそれぞれどのようなもので、どのように計算をされるのか、ご説明します。
裁判所の考え方
まず、財産分与について、裁判所はどのような考え方をしているのか、ご紹介します。
【最高裁判所昭和46年7月23日判決】
離婚における財産分与の制度は、夫婦が婚姻中に有していた実質上共同の財産を清算分配し、かつ、離婚後における一方の当事者の生計の維持をはかることを目的とするものであつて、分与を請求するにあたりその相手方たる当事者が離婚につき有責の者であることを必要とはしないから、財産分与の請求権は、相手方の有責な行為によつて離婚をやむなくされ精神的苦痛を被つたことに対する慰藉料の請求権とは、その性質を必ずしも同じくするものではない。したがつて、すでに財産分与がなされたからといつて、その後不法行為を理由として別途慰藉料の請求をすることは妨げられないというべきである。もつとも、裁判所が財産分与を命ずるかどうかならびに分与の額および方法を定めるについては、当事者双方におけるいつさいの事情を考慮すべきものであるから、分与の請求の相手方が離婚についての有責の配偶者であつて、その有責行為により離婚に至らしめたことにつき請求者の被つた精神的損害を賠償すべき義務を負うと認められるときには、右損害賠償のための給付をも含めて財産分与の額および方法を定めることもできると解すべきである。そして、財産分与として、右のように損害賠償の要素をも含めて給付がなされた場合には、さらに請求者が相手方の不法行為を理由に離婚そのものによる慰藉料の請求の支払を請求したときに、その額を定めるにあたつては、右の趣旨において財産分与がなされている事情をも斟酌しなければならないのであり、このような財産分与によつて請求者の精神的苦痛がすべて慰藉されたものと認められるときには、もはや重ねて慰藉料の請求を認容することはできないものと解すべきである。しかし、財産分与がなされても、それが損害賠償の要素を含めた趣旨とは解せられないか、そうでないとしても、その額および方法において、請求者の精神的苦痛を慰藉するには足りないと認められるものであるときには、すでに財産分与を得たという一事によつて慰藉料請求権がすべて消滅するものではなく、別個に不法行為を理由として離婚による慰藉料を請求することを妨げられないものと解するのが相当である。
以上の判決を要約すると、
① 財産分与の制度は、婚姻中の共同の財産を清算する(清算的要素)と離婚後における一方の生計の維持をはかる(扶養的要素)ことを目的とする。
② 慰謝料は財産分与とは別のものであるが、財産分与において慰謝料的な要素も考慮することができる。
③ 財産分与において慰謝料的要素の支払も行われた場合には、後に慰謝料請求が行われた場合には、財産分与での支払額を考慮して慰謝料の額を決めなければならない。
となります。
つまり、裁判所は、財産分与は①清算的要素と②扶養的要素で構成されている。慰謝料的要素も考慮してもよい。という考え方をしているということになります。そして、後に説明をしますが、実務上は、①清算的要素がメインであり、②扶養的要素は一定程度考慮されることがある、③慰謝料的要素は、調整のために考慮されることがありうる、という運用をしていることが一般的です。
財産分与の清算的要素
上記でも説明したとおり、財産分与のメインは、夫婦の共有財産の清算です。
具体的には、以下のように計算をしていくことが一般的です。
① 夫婦それぞれの名義の財産を一覧にする
② ①の財産のうち、それぞれの特有財産を除く
③ 夫婦の共同生活のために発生した負債を考慮して調整する
④ 原則として、2分の1で分ける
以下、解説をしていきます。
① 夫婦それぞれの名義の財産を一覧にする
原則として、夫婦の財産すべてが財産分与の対象となりえます。保険契約は現時点の解約返戻金相当額が財産分与の対象となります。また、将来発生する予定の退職金なども財産分与の対象となることがあります。詳しくは以下のリンク先をご覧ください。
なお、財産分与のための財産の価値を算出する基準となる日は、一般的に、「別居を開始した日」とされています。
② 夫婦それぞれの特有財産を財産分与の対象から外す
夫婦の一方が結婚前から所有していた財産や婚姻期間中に夫婦がそれぞれの親などから相続によって取得した財産など、夫婦それぞれの「特有財産」は財産分与の対象とはなりません。「特有財産」の解説は、以下のリンク先をご覧ください。
③ 負債の調整
一般的に、財産分与の額を決める際には、「夫婦共同生活の維持のために必要とされる負債」の額を考慮することとされています。実際の計算方法は、夫婦の財産から特有財産を引いた価格から、債務の額を引いた残額を財産分与の対象とする、という方法が一般的です。
負債の調整をする際には、以下の点に注意が必要です。
㋐ 債権者の承諾がない限り、借金は「分与」をすることはできません。債権者の承諾がある場合を除き、「財産分与」によって負債の名義人(債務者)が変更されるということはありません。「財産分与」によってプラスの財産を分ける際に、離婚後も一方が負う負債の額を考慮して分ける財産に差を設けるなどして考慮をすることになります。
㋑ 財産分与において考慮となるのは夫婦共同生活の維持のための負債のみです。生活費不足を補うための借金や婚姻期間中に購入した家の住宅ローンなどは考慮の対象となりますが、婚姻期間中に、一方がギャンブルにはまって作ってしまった負債など、夫婦共同生活の維持と関係のない負債については、考慮の対象になりません。
④ 財産の分割
財産の分与は、通常、2分の1の割合で行われます。「2分の1ルール」と呼ばれます。
現在の家庭裁判所の運用では、一方が主夫/主婦であったとしても、2分の1という判断をすることが原則です。
一方、夫婦の共同の財産の形成において、夫婦の寄与が全く異なるような場合には、修正される場合があります。例えば、裁判所は、以下のように説明をしています。
【大阪高等裁判所平成26年3月13日判決】
原則として、夫婦の寄与割合は各2分の1と解するのが相当であるが、例えば、ⅰ 夫婦の一方が、スポーツ選手などのように、特殊な技能によって多額の収入を得る時期もあるが、加齢によって一定の時期以降は同一の職業遂行や高額な収入を維持し得なくなり、通常の労働者と比べて厳しい経済生活を余儀なくされるおそれのある職業に就いている場合など、高額の収入に将来の生活費を考慮したベースの賃金を前倒しで支払うことによって一定の生涯賃金を保障するような意味合いが含まれるなどの事情がある場合、ⅱ 高額な収入の基礎となる特殊な技能が、婚姻届出前の本人の個人的な努力によっても形成されて、婚姻後もその才能や労力によって多額の財産が形成されたような場合などには、そうした事情を考慮して寄与割合を加算することをも許容しなければ、財産分与額の算定に際して個人の尊厳が確保されたことになるとはいいがたい。
ただし、このような寄与割合の修正をするケースは例外です。「一方が専業主婦である」などの事情だけでは寄与割合の修正が認められる可能性は低いと考えられます。
財産分与の扶養的要素
夫婦の扶養義務は、本来、離婚によってなくなります。そのため、本来、離婚後の扶養義務はないはずです。しかしながら、現在の裁判所の運用では、離婚後の生活の準備のための経済的補償を、財産分与の際に考慮するということになっています。「離婚後補償」と呼ばれることもあります。
現在の裁判所の運用では、扶養的要素の金額は、きわめて低額であると指摘されています。「裁判所が認める扶養料は、離婚という突発的な生活の危機に対処するための手当に過ぎない」という指摘もされています。具体的にいくらの財産分与が認められるかは事案によるところですが、相手方が争う場合、大きな期待をすることはできないということは覚えておいていただければと思います。
なお、離婚をしても、未成熟の子に対する扶養義務は続きます。養育費の支払義務は離婚によって消滅するものではありません。
財産分与の慰謝料的要素
慰謝料は、財産分与とは別に請求することができます。離婚の調停・訴訟の中で請求することもできますし、離婚とは別に民事訴訟で請求することもできます。
そのため、財産分与の中で慰謝料的要素を考慮する必要は本来ないのですが、家庭裁判所は、財産分与の額を調整するため、慰謝料的な要素を考慮することがあります。例えば、2分の1で清算をした場合に不当な結論になるような場合には、「慰謝料的要素を考慮した」ということにして、財産分与の全体の額を妥当な金額に修正するということが行われています。
ただし、これまでもお話をしたとおり、財産分与の慰謝料的要素は、財産分与のメインの要素とはなりません。慰謝料を請求する場合は、財産分与とは別に、慰謝料の請求を行うことが通常です。
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