「法定後見制度」「任意後見制度」「民事信託(家族信託)」はどのように異なるのでしょうか?
高齢者・障がいを持つ方の財産管理の制度として、「法定後見」、「任意後見」、「民事信託(家族信託)」など、様々な制度があることは理解できたが、結局、どの制度を利用すればよいかわからない、という感想を持たれる方は多いと思います。ここでは、「法定後見」「任意後見」「民事信託」の違いについてご説明し、どのような事案でどの制度を利用するのが適切なのか、一般的なお話をさせて頂きます。
なお、一般論をご理解されたとしても、具体的な事案においてどの制度を利用すべきか判別することはなかなか難しいかと思います。具体的なケースで「どの制度を使うべきか」については、ぜひ、専門家にご相談下さい。
「法定後見制度」「任意後見制度」「民事信託」の比較
まず、各制度の違いを一覧表にさせて頂きます。
法定後見制度 | 任意後見制度 | 民事信託 | |
---|---|---|---|
対象となる財産 | 民法 | 任意後見契約に関する法律 | 信託法 |
身上監護 | 〇 | 〇 | × |
財産管理 | 〇 | 〇 | 〇 |
資産承継 | × | × | 〇 |
資産運用 | △ | △ | 〇 |
対象となる財産 | 原則、全ての財産 | 契約で選ぶことができる | 契約で選ぶことができる |
財産の管理者を | 選ぶことができない(家庭裁判所が決める) | ご本人が選ぶことができる | ご本人が選ぶことができる |
財産の管理者の資格 | 家庭裁判所が決める | 原則、誰でもよい | 原則として誰でもよいが、弁護士などの専門職が受託することはできない |
財産の管理者の報酬 | 家庭裁判所が決める | 契約で決める(+監督人報酬) | 契約で決める |
制度利用時の本人の能力 | 能力を失っていても使うことができる | 契約時に契約を締結する能力が必要 | 契約時に契約を締結する能力が必要 |
本人が死亡した場合 | 終了する | 終了する | 契約で決めることができる |
裁判所の関与 | あり | あり | 原則、なし |
公正証書 | 不要 | 必須 | 必須ではないが、推奨 |
以下、この記事では、主に後見制度(法定後見・任意後見)と民事信託の違いについてお話をしていきます。
法定後見と任意後見の比較については、以下のリンク先もご覧ください。
後見制度(法定後見・任意後見)と民事信託のどちらを利用すべきか?
後見制度(法定後見制度・任意後見制度)と民事信託のどちらを利用すべきか、あるいは併用すべきかは、事案によって異なってきます。その中で、特にポイントとなるのは、以下の要素になります。
① 資産の管理だけではなく、資産の運用を必要とする場合
後見制度は、法定後見の場合も、任意後見の場合も、家庭裁判所による監督が入ります。家庭裁判所は、ご本人を守ることを第一に考えますので、通常、リスクの高い資産運用には、消極的な立場をとります(投資を全て禁止するわけではありませんが、リスクのある投資には消極的な態度をとることが一般的です。)。そのため、法定後見・任意後見では、資産運用を全くできないわけではありませんが、リスクのある投資には消極的にならざるを得ない部分があります。また、後見人等が選任される前から行われていた節税対策などについても、後見人選任後に続けることができるかは、家庭裁判所や後見人等・後見監督人の判断によるため、不確実となります。
一方、民事信託では、資産の運用などについて、契約によって原則として自由に決めることができます。委託者が望むのであれば、リスクのある資産運用も選択することが可能です。
このように、ご本人の財産について(特にリスクのある)資産運用を考えるのであれば、民事信託の利用を検討することになります。
② 資産の承継を考える場合
法定後見・任意後見は、ご本人が亡くなられた時点で終了します。財産の承継のためには、別途、遺言を作成する、死因贈与契約を結ぶなどの対応をしておくことが必要になります。また、死後の事務については、原則として、死後事務委任契約を結んでおく必要があります。成年後見制度を利用する場合、資産の承継やご本人が亡くなられた後の対応については、別途、対応をしておく必要があります。
一方、民事信託では、「ご本人が亡くなっても契約の効力が失われない」と契約で定めることが可能です。ご本人が亡くなられた時点で信託を終了させるかどうかは、民事信託の契約を作成する際に決めることができます。遺言を利用する場合はご本人が亡くなるまで効力は発生しませんが、民事信託であれば、ご本人の生前から亡くなった後まで、一貫した資産承継をすることが可能です。
なお、遺言、死因贈与、民事信託のどれを利用する場合も、「遺留分」の問題が発生します。この「遺留分」の問題について、一般的には、民事信託を利用しても遺留分の問題を回避することはできないと考えられています。なお、遺留分を潜脱する意図で信託制度を利用したとして民事信託契約の一部が無効とされた事例があります(東京地裁平成30年9月12日判決)。
③ 身上監護(契約などの補助)への対応が必要な場合
法定後見人・任意後見人は、財産の管理以外に、ご本人の住居の確保、施設への入退所、介護に関する契約の締結、医療に関する契約の締結など、ご本人の生活に関する事務も行うことができます。「身上監護」と呼ばれる業務です。
一方、民事信託は、あくまで財産の管理・運用・処分のための制度なので、身上監護に関する事項を定めることはできません。民事信託を利用する場合で、身上監護も必要な場合は、民事信託契約とは別に、任意後見契約を締結しておく必要があります。民事信託と法定後見の併用も可能ですが、法定後見の場合、後見人等を選ぶことができず、信託契約に反対する後見人等が選任されることもありうるため、信託契約のことを理解している方を任意後見人に選んでおくべきです。
④ 財産管理の監督について
成年後見制度を利用する場合、法定後見、任意後見のいずれについても、家庭裁判所による後見人等への監督があります。また、任意後見の場合は、必ず後見監督人が選任されます。このような制度となっているため、(残念ながら)後見人等による横領事案も全くないわけではありませんが、安全性は、比較的高いといえます。
一方、民事信託については、法律上は、監督者を置く義務はありません。信託契約において信託監督人(弁護士・司法書士などの専門職を選択することが多いと思いますが、制限はありません。)を設定することは可能ですが、監督人を設置しなくてもよいこととなっています。また、信託監督人を設定したとしても、その権限は、家庭裁判所による監督のような、強いものではありません。
⑤ 相続税(節税)対策を考える場合
法定後見・任意後見・民事信託のいずれについても、制度そのものには相続税などの節税効果はありません。民事信託についても、制度を利用することのみで節税を行うことはできません。特に民事信託については、節税目的での利用を検討される方もいらっしゃると思いますが、制度自体に節税効果がないことには注意が必要です。
なお、特に民事信託を利用する場合、複雑な税金の問題が発生することもありますので、必要に応じて税理士に相談されることをお勧めします。
⑥ その他・・・どの制度によっても対応できないもの
身元保証、医療同意、結婚・離婚などの身分行為、介護などの事実行為については、後見制度(法定後見・任意後見)でも民事信託でも対応することはできません。
以上のように、後見制度(法定後見・任意後見)と民事信託は、どちらがより優れた制度であるという関係にはありません。何を目的にするかで、利用すべき制度は異なってきます。また、事案によっては、制度を併用することも必要となります。
はじめにも述べさせていただきましたが、具体的な事案でどの制度を利用すべきかという判断については、専門家とよくご相談されることをお勧めします。
任意後見制度や民事信託を利用するための判断能力の問題
「任意後見契約」、「民事信託契約」はいずれも「契約」です。これらの契約を成立させるためには、ご本人に契約を理解することのできる能力がなければなりません。認知症などによりご本人の能力が一定程度低下していたとしてもその契約の内容を理解できる能力が残っていれば任意後見契約や民事信託契約を結ぶことはできますが、複雑な契約を結ぶことは難しいかもしれません。ある契約を結ぶことができるかどうかは、ご本人の能力と契約内容の複雑さから、個別に検討するしかありません。
具体的にどの程度の能力が必要とされるかは、ご本人の能力や契約の複雑さによって異なってきます。具体的には、ご本人について、以下のようなポイントを検討することになります。
- ご自身がどのような財産を所有しているのか、わかっているか
- ご自分の財産のうち、どの財産の管理を任すのか、認識できているか
- 誰がご自分の財産を管理することになるか、わかっているか
- ご自分の財産の管理を任せることにより、誰にどのような利益が生まれるか、わかっているか
- (特に信託について)ご自身が亡くなったとき、その財産を誰が承継することになるか、わかっているか
- (特に信託で、リスクのある契約をする場合には)財産の価値が下がるなどのリスクがあることを認識できているか
上記の各ポイントについては、
- 契約作成時のご本人の言動
- 医者(可能であれば主治医)の診断書・カルテ
- 認知症のテスト(長谷川式簡易スケール・MMSEなど)の点数
- 介護認定の程度、介護記録
- 公証人との面談の状況
などから判断をしていくことになります。特に任意後見契約を作成する場合や民事信託契約を公正証書により作成する場合には公証人がご本人と面談を行うことになりますので、その際にご本人が契約の意味・内容を理解し、公証人からの質問に答えることができるかが重要になります。公証人との面談の結果、公証人がご本人の契約作成能力に問題があると判断した場合には、任意後見契約や民事信託契約を成立させることはできなくなります。
すでにご本人の能力が相当程度低下しており、任意後見制度・民事信託・日常生活自立支援事業などの利用が困難な場合には、法定後見制度を利用するほかありません。
法定後見制度を利用する場合も、ご本人が制度の意味を理解できる状態であれば、ご本人が自ら、自分自身のために成年後見等の申立てを行うことができますが、これも難しい場合、第三者(ご家族や市町村長等)による申し立てを選択しなければならなくなります。
民事信託契約や任意後見契約を作成するためには、ご本人にその契約の内容を理解できる能力が残っていなければなりません。ご家族がご本人を代理して、これらの契約を作成することはできません。
これらの契約は、ご家族(特に民事信託の受託者の候補者や任意後見人の候補者となる方)主導で作成を検討されることも多いかと思います。しかし、これらの契約を締結するかについて、最終的に判断をするのは、ご本人です。ご本人が、自らの財産を、任意後見人に管理をお願いするのか、受託者に信託するのか、決めなければなりません。ご本人にこの決定をできるだけの能力が残っていない場合、民事信託契約や任意後見契約を成立させることはできません。
民事信託契約や任意後見契約の作成をサポートする専門職やこれらの契約書の作成にかかわる公証人は、ご本人が自らの意思で、これらの契約を作成しようとしているのか、注目しています。ご本人にこれらの契約を作成する意思がないにもかかわらず、ご家族(ら)主導でこれらの契約が作成されようとしている場合、専門職や公証人は、契約の作成をお断りすることになります。
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