後見人・保佐人・補助人の「同意権」「取消権」「代理権」とはどのような権利なのでしょうか?
後見人等は、「財産管理」や「身上監護」の業務を行うために、法律上、「代理権」や「同意権」という権利を与えられます(ただし、後で詳しく説明するとおり、保佐類型、補助類型の場合は、権限を持たない場合もあります。)。また、後見人等は、「同意権」が与えられている事項について、ご本人が後見人等の同意を得ずにした場合にその行為を取り消すことができる「取消権」を行使することもあります。
ここでは、この「同意権」「取消権」「代理権」と呼ばれる各権限について、それぞれどのような権限なのか、後見人・保佐人・補助人の権限の範囲がどのようになっているのかなどについて、ご説明します。
「同意権」「取消権」「代理権」の簡単な説明
まず、最初に、「同意権」「取消権」「代理権」について、それぞれ、簡単に、どのような権利なのか、説明します。詳しい説明は、それぞれの説明をご覧ください。
- 代理権:ご本人(被後見人・被保佐人・被補助人)の代わりに、ご本人のために、契約などの法律行為をしてあげることができる権利。
- 同意権:ご本人(被保佐人・被補助人)が契約などの法律行為をするときに、保佐人、補助人が「それをしてもいいですよ」と同意をする権利。
- 取消権:ご本人(被保佐人・被補助人)が保佐人・補助人の同意を得なければならない法律行為を保佐人・補助人の同意を得ずにした場合に、保佐人・補助人がその法律行為を取り消すことができる権利。保佐人・補助人は、法律行為を取り消さずに同意する(「追認」といいます。)こともできる。
このうち、実際によく使う権利は「代理権」です。後見人等は、しばしば、ご本人のために、ご本人に代わって介護サービスの契約書や施設入所契約書を作成しますが、これは、「代理権」を行使し、ご本人を「代理」して契約をしていることになります。また、後見人等は、ご本人に代わって預貯金を引き出したり、介護サービスや施設代、病院代などの支払を行いますが、これも「代理権」を行使して、ご本人を「代理」して対応をすることになります。なお、この「代理権」を行使するにあたっては、ご本人の生活状況や資産状況に十分に注意する必要がある他、ご本人の意思を尊重することも必要です。
一方で、事案によりますが、「同意権」や「取消権」を行使するケースは、多くはありません。「同意権」や「取消権」の行使の対象となるのは、被保佐人、被補助人など、ご本人も一定の判断能力を持っており、自分でも契約などをすることができなくはないという方の行為に限られます。判断能力が全くない方の行為はそもそも「無効」となるため、「同意」や「取消し」の対象になりません。また、後見人等は、その業務を行うにあたり、ご本人の意思を尊重することが必要ですので、ご本人の行為をなんでも取り消せばよいということはありません。後見人等は、できる限りご本人の意思を尊重しつつ、真に必要な範囲で「取消権」を行使する必要があります。
「同意権」「取消権」「代理権」の範囲
「代理権」「同意権」「取消権」の範囲は、民法に定めがあります。後見・保佐・補助のそれぞれに類型について、それぞれの権利の有無や範囲が決められています。
その詳細は、以下のとおりです。
後見人 | 保佐人 | 補助人 | 任意後見人 | |
---|---|---|---|---|
同意権の範囲 | 同意権はない (本人が法律行為をすることは想定されていない) | 民法13条1項記載の行為 + 家庭裁判所が指定した行為 | 家庭裁判所が指定した行為 (同意権を持たない場合もある) | ない |
取消権の範囲 | 「日常生活に関する行為」のみ取り消すことができない。 その他の行為は全て取消しの対象になる | 民法13条1項記載の行為 + 家庭裁判所が指定した行為 | 家庭裁判所が指定した行為 (同意権がない場合は取消権もない) | ない |
代理権の範囲 | 原則、全て(包括代理権) | 家庭裁判所が指定した範囲 (代理権を持たない場合もある) | 家庭裁判所が指定した範囲 (代理権を持たない場合もある) | 任意後見契約で定めた範囲の代理権を持つ |
重要なポイントは以下のとおりです。
- 後見類型の場合、原則として全ての法律行為について、後見人に「代理権」が与えられます。また、「日常生活に関する行為」(例えば、コンビニエンスストアで100円のお茶を購入するなど。)以外の全ての行為について、「取消権」の対象になります。このように後見類型の場合には包括的な代理権が与えられます。
- 任意後見の場合、「代理権」の範囲は、任意後見契約で定められた範囲に限られます。後見類型とは異なりますので注意が必要です。また、任意後見人には「同意権」、「取消権」はありません。このように「任意後見」と「(法定)後見」は大きく異なりますので、注意が必要です。
- 保佐類型の場合、「同意権」と「取消権」の範囲は民法で定められています。また、家庭裁判所の決定により、民法で定められた範囲を超えて「同意権」が定められることもあります(「同意権」が定められた場合、「取消権」も発生します。)。「代理権」の範囲は、家庭裁判所が決定します。保佐人は「代理権」を持たないこともあり得ます。
- 補助類型の場合、「代理権」「同意権」「取消権」の全てについて、その範囲は家庭裁判所が定めます。補助類型の場合、補助人が「代理権」「同意権」「取消権」を持たないこともあり得ます。
「同意権」「取消権」の詳しい説明
「同意権」とは、ご本人が契約などの法律行為をするときに、保佐人・補助人が「それをしてもいいですよ」と同意をする権利です。ご本人が、保佐人・補助人の同意を得なければならない法律行為を保佐人・補助人の同意を得ずにした場合、保佐人・補助人はその法律行為を取り消すことができます(これを「取消権」といいます。民法13条、同法17条1項)。保佐人・補助人は、「取消権」を行使せず、後から同意をすることもできます(これを「追認」といいます。)。なお、ご本人(被保佐人・被補助人)も、自身の保佐人・補助人の同意を得ておらず、かつ追認もされていない場合には、「取消権」を行使して法律行為を取り消すことができます。
同意や取消しは、法律行為の相手方に対して行います。あらかじめ同意をする場合には、契約書などに、保佐人・補助人が「上記の行為に同意をします。」と記載するなどして、同意があることを示します。法律行為を取り消す場合や追認をする場合は、その法律行為の相手方に対して意思を伝えます。意思の伝え方に決まりはなく、口頭で伝えることもできますが、後で争いになるような場合には「内容証明郵便」を送付するなどして証拠を残します。
「取消権」が行使された場合、その法律行為は最初からなかったことになります。例えば、売買契約を取り消した場合、既に支払った代金は返してもらえますし、今後支払う予定の代金の支払義務はなくなります。一方、受け取った商品は返却することになります。「追認」をした場合、その契約は最初から有効となります。
① 後見類型の場合
後見類型の場合、ご本人が自分自身で法律行為をすることは想定されていないため、後見人がご本人の法律行為に同意をするということはありません。そして、後見人は、ご本人がした法律行為全般を取り消すことができます。ただし、「日用品の購入その他日常生活に関する行為」については、取消しの対象外とされています(民法9条)。例えば、「入院中の被後見人が、病院内のコンビニエンスストアで100円の水を購入する」、「グループホームに入所中のご本人が、お小遣いの範囲内で、外出時に100円のおにぎりを購入する」などの行為については、取消しの対象となりません。
② 保佐類型の場合
保佐人は、民法13条1項記載の重要な行為と家庭裁判所が定めた行為について同意権・取消権を持っています。民法13条1項記載の重要な行為は、以下のとおりです。
1 元本を領収し、又は利用すること。
2 借財又は保証をすること。
3 不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること。
4 訴訟行為をすること。
5 贈与、和解又は仲裁合意(中略)をすること。
6 相続の承認若しくは放棄又は遺産の分割をすること。
7 贈与の申込みを拒絶し、遺贈を放棄し、負担付贈与の申込みを承諾し、又は負担付遺贈を承認すること。
8 新築、改築、増築又は大修繕をすること。
9 民法602条に定める期間を超える賃貸借をすること。
保佐人は、上記の各行為については、常に「同意権」と「取消権」を持っています。ご本人(被保佐人)が上記の各行為をしようとする場合は保佐人の同意が必要となり、保佐人の同意を得ていない場合、その行為は取り消されることがあります。
また、保佐人は、家庭裁判所の決定により、以上の行為以外にも「同意権」と「取消権」を持つことがあります。ただし、追加の「同意権」・「取消権」を設定する場合は、ご本人の同意が必要です。上記に行為以外に「同意権」「取消権」を設定する場合、家庭裁判所は、ご本人の意向を確認したうえで、権利を付与するか、判断します。民法13条1項記載の行為以外に「同意権」「取消権」が設定されている場合、「登記事項証明書」を確認することで、その中身を確認することができます。
③ 補助類型の場合
補助人は、家庭裁判所が特に定めた場合に限り、「同意権」「取消権」を持っています。ただし、「同意権」「取消権」を設定できる行為は、民法13条1項に書かれている行為(上記の行為)のうちの一部に限られます。補助類型の場合、民法13条1項に書かれている行為以外について「同意権」「取消権」を設定することはできません。また、家庭裁判所が「同意権」「取消権」を設定するためには、ご本人の同意が必要です。
補助人は、「同意権」「取消権」を持たないこともあります。補助人が「同意権」「取消権」を持っているかは、「登記事項証明書」を見ることで確認をすることができます。被補助人ご本人と取引をする場合には、補助人に問い合わせをし、登記事項証明書を見せてもらうことで、「同意権」「取消権」の有無を確認することができます。
④ 任意後見の場合
任意後見契約に基づいて就任する任意後見人には「同意権」「取消権」はありません。任意後見契約は、その効力が発生しても(任意後見人が選任されても)権限が制限されることはありません。任意後見と法定後見では「同意権」「取消権」の扱いが大きく異なるので注意が必要です。
なお、任意後見人は、任意後見契約の中で定めた範囲内の「代理権」を持っています。
「代理権」の詳しい説明
代理権とは、ご本人の代わりに、ご本人のために、法律行為をしてあげることができる権利です。後見人等は、「財産管理」や「身上監護」の業務のために様々な契約などを行いますが、これらはご本人に代わって契約などを結ぶことになりますので、「代理権」を行使しているということになります。
後見人等は、「代理権」を行使する場合、「○○(ご本人の名前)後見人××(後見人の名前)」と表示して契約などを行います。このようにして行われた契約などの効果は、ご本人がその契約などをした場合と同じように、ご本人に帰属します。例えば、後見人が「代理権」を行使して売買契約をした場合、購入した商品はご本人のものになり、代金もご本人のお金から(通常は後見人が代理して)支払います。
① 後見類型の場合
後見人の場合、原則として全ての法律行為について包括的な「代理権」を持っています(民法859条1項)。後見の場合、当然に権利を持っていることとされており、(ご本人の同意がなくても)包括的な「代理権」を持つことになります。後見人は、ご本人の居住用不動産の売却などの法律で定められている事項を除き、何でも代理をすることができます。
② 保佐類型・補助類型の場合
保佐人・補助人の場合、家庭裁判所が定めた特定の行為について「代理権」を持ちます(民法876条の4第1項、同法876条の9第1項)。保佐・補助の場合、「代理権」を設定するためには、ご本人の同意が必要です。家庭裁判所は、ご本人の意見を聞き、「代理権」の範囲を設定します。通常「預金取引」などとある行為全体について「代理権」を付与されますが、事案によっては「○○銀行との間の預金取引」など、特定された「代理権」が付与される場合もあります。通常、代理権の範囲は保佐・補助開始の際に設定されますが、その後に代理権を追加したり削除したりすることもできます。代理権を追加する場合、家庭裁判所に「代理権付与の申立て」をすることになります。
保佐人、補助人は、「代理権」を持っていないこともあります。保佐人・補助人の「代理権」の有無や範囲は審判書及び登記事項証明書に記載されています。審判書又は登記事項証明書を見ることで、「代理権」の範囲を確認をすることができます。保佐人・補助人と取引をされる方で、「代理権」の有無の確認が必要な場合は、審判書又は登記事項証明書を見せてもらうことにより、「代理権」の有無を判別することができます。実際には、例えば銀行と継続的に預貯金の預入れ、引き出しを行う場合、保佐人・補助人が就任した時点で登記事項証明書などを提出して登録し、その後の取引では1回1回の確認を省略するということが行われています。
なお、保佐人・補助人が代理権の範囲外の行為を行った場合、その行為の効果はご本人に帰属しません。保佐人・補助人が、自分自身で責任を負うことになります。
③ 任意後見の場合
任意後見人は、任意後見契約において定められた範囲の代理権を持ちます。任意後見契約において「代理権」を定めることのできる事項は、ご本人の生活、ご本人の療養看護、ご本人の財産管理に関する事務のうちの、全部または一部とされています。任意後見人の「代理権」の範囲も法務局で記録されますので、登記事項証明書を見せてもらうことで確認をすることができます。
後見人等の「同意権」「取消権」「代理権」の制限
これまでお話ししてきたように、後見人・保佐人・補助人には、それぞれ制度によって範囲は異なりますが、「同意権」「取消権」「代理権」という、強い権限が与えられています。ただし、これらの権利は、後見人等が、何でも、好き勝手に、自由に使うことができるわけではありません。
① 権利の制限
後見人・保佐人・補助人は、一定の行為について「代理権」を行使しようとする場合には、「代理権」の制限を受けます。例えば、以下のような規定があります。
- 後見人等がご本人の居住用不動産を処分(売却など)する場合には、家庭裁判所の許可を得なければならない(民法859条の3など)
- 後見人等がご本人と後見人等の利害が相反する行為(利益相反行為)をする場合には、家庭裁判所に特別代理人を選んでもらわなければならない(民法860条・826条)
- 後見等監督人が選任されている場合に、後見人等が一定の重要な行為(民法13条1項各号に記載されている行為など)をする場合、後見監督人の同意を得なければならない(民法864条・865条)
また、性質上、ご本人の結婚・離婚などの身分に関する決定は、後見人等が代理をすることはできませんし、後見人等の同意を得ていない場合に取消しの対象となることもありません。
② ご本人の意思の尊重
後見人・保佐人・補助人が「代理権」「同意権」「取消権」を行使する際には、ご本人の意思を尊重し、ご本人のおかれている状況に配慮をして行使をしなければなりません。民法は「成年後見人は、成年被後見人の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務を行うに当たっては、成年被後見人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない。」と定めています(民法858条)。後見人等は、強い権限を持っているからといって、その権限を濫用してはいけません。
③ 権利の範囲の変更
保佐類型・補助類型の場合、「代理権」「同意権」「取消権」の範囲は、ご本人の承諾を得た上で、家庭裁判所が定めます。これらの権利の範囲は、通常、保佐・補助が開始する時点で定めることになりますが、その後に事情の変更により、追加されたり削除されたりすることがあります。権利の範囲の変更は、保佐人・補助人が申し立てる場合とご本人(被保佐人・被補助人)が申し立てる場合もあります。権利を追加する場合は、ご本人の同意が必要です。一方で、権利の範囲を縮減する場合(「代理権付与の取消し」などの申立てが行われます。)には、法律上は、ご本人の意見を聞く必要はありません。ただし、通常、家庭裁判所は、ご本人や保佐人・補助人の意見を聞いて決定しています。
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