成年後見人(・保佐人・補助人)の業務の内容はどのようなものなのでしょうか?
成年後見制度を利用した場合、後見人等は何をしてくれるのでしょうか。一般的に、成年後見人(・保佐人・補助人)の業務は、「財産管理」と「身上監護」の2つだと説明されます。しかしながら、そのように説明を受けるだけでは、具体的にどのような活動をするのか、わからないと思います。
このページでは、後見人等の業務内容について、その中身をご説明します。
財産管理
民法859条1項(財産の管理及び代表)
後見人は、被後見人の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為について被後見人を代表する
民法858条(成年被後見人の意思の尊重及び身上の配慮)
成年後見人は、成年被後見人の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務を行うに当たっては、成年被後見人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない。
「財産管理」とは、その名のとおり財産を管理することですが、「ご本人の相続人のために財産を残しておく」ことを目的とするのではなく、「ご本人のためにご本人の財産を適切に利用する」ことを目的とする財産管理であることが特徴です。ご本人の意思に基づき、本人のために、適切に財産を管理、利用することが求められます。なお、ご本人が意向を表示できない場合には、ご本人の意思を推定して活動をすることになります。
また、事案によっては、遺産分割や債務の整理など、ご本人が抱える課題を解決することも後見人等の業務となります。このような業務を行う際も、ご本人の意向を確認しつつ、活動をすることになります。
後見人等は、「同意権」「取消権」「代理権」を適切に行使しつつ、これらの業務に対応することを求められています。
- 後見人等の重要な役割の一つは、ご本人の「財産管理」をすることである。
- 後見人等は、ご本人の意思に基づき、ご本人のために、ご本人の財産を適切に管理・利用することが求められる。
身上監護
民法858条(成年被後見人の意思の尊重及び身上の配慮)
成年後見人は、成年被後見人の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務を行うに当たっては、成年被後見人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない。
「身上監護」とは、ご本人のために、適切な介護・医療などのサービスの契約を行い、利用料の支払いなどの手続をすることで、ご本人の生活を守るという業務です。ご本人がご自宅で生活をされている場合は、ご自宅の賃貸借契約、電気ガス水道などの契約、ヘルパーの契約など必要な契約を行い、これらの支払いの手続きを行うことなどが主な業務になります。ご本人が入院・入所中であれば、ご本人のために入院・入所等の契約を行い、これらの支払いを行うことが主な業務です。また、年金の申請や介護保険の利用など、適切なサービスの申請を行うことも身上監護の業務の一つになります。一方で、後見人等が、直接、本人を介護することはありません。後見人等の業務は、ご本人の生活を契約などの法律面からサポートするということになります。
なお、裁判所は、身上監護(身上配慮義務)について、以下のように説明をしています。
【最高裁判所平成28年3月1日判決】
身上配慮義務は、成年後見人の権限等に照らすと、成年後見人が契約等の法律行為を行う際に成年被後見人の身上について配慮すべきことを求めるものであって、成年後見人に対し事実行為として成年被後見人の現実の介護を行うことや成年被後見人の行動を監督することを求めるものと解することはできない。
- 後見人等のもう一つの重要な業務が、「身上監護」を行うことである。
- 「身上監護」は、ご本人のために、適切なサービスの契約や支払いの手続などを行い、ご本人の生活を守る業務のことをいう。
- 後見人等が、直接、ご本人の介護をするわけではない。
後見人等ができないこと
これまでお話ししてきたように、後見人等は、ご本人の生活全般について、様々なサポートをしてくれます。一方で、法律上、後見人等にはできない業務もあります。代表的なものは以下のとおりです。
- ご本人の介護などの事実行為。後見人等の業務は契約を結ぶ、支払を行うなどとなります。実際にご本人の介護をするわけではありません。
- ご本人の(連帯)保証人、身元引受人になること。後見人等は、ご本人に代わってご本人の財産の管理を行いますが、ご本人が支払いをできない場合などに後見人が、代わって支払いを行ってくれるわけではありません。なお、ご本人の生活が苦しい場合に、生活保護などの各種社会保障の申請を行うことは、後見人等の業務の範囲内になります。
- ご本人の結婚・離婚、遺言の作成など、身分行為に関すること。これらはご本人が自分自身で決定をすべきものであり、後見人等が代わって判断をするものではありません。
- 医療の同意を行うこと。医療の同意についても、ご本人にしか同意をする権利はなく、後見人等がご本人に代わって同意をすることはできません。また、ご本人のご家族の同意が必要な場合も、(親族後見人を除き)後見人等は親族ではないため、後見人等がご本人の家族として活動をすることはできません。
- ご本人が亡くなられた後の事務を行うこと。後見人等の業務は、ご本人が亡くなられた瞬間に終了します。ご本人が亡くなられた後は、後見人は、ご本人を代理することはできません。なお、ご本人が亡くなられた後の事務については、一定の例外があり、後見人等であった方が、家庭裁判所の許可を受けることで、一定の業務をすることができる場合があります。
このように、後見人には「できないこと」があります。時々、これらの「できないこと」の業務を期待して、ご家族や支援者の方々が成年後見制度利用のご相談にいらっしゃることがありますが、上記の課題は成年後見制度では解決することができませんので、注意が必要です。
なお、例えば、本人死亡後の事務については、別途、死後事務委任契約を結ぶことで対応できるなど、他の制度、契約などを併用することで後見人等が業務を行うことができないという問題を回避することができる場合もあります。専門家に相談をされる際には「課題は何か」教えて頂ければ解決する方法を提示させていただくことができるかもしれません。
- 後見人等ができない業務として、事実行為(本人の介護など)の他に、本人の(連帯)保証人・身元引受人になること、本人の身分に関する行為、本人の医療の同意をすること、(例外はあるが)本人死亡後の事務を行うこと、などがある。
- ご本人の死亡後の事務などは、別の制度を利用することにより対応することができる。
「意思決定支援」について
近年、後見人等が業務をするにあたっては、ご本人の意思を尊重し、ご本人の意思決定を支援することが重要であるという考え方が広まっています。このような考え方は「意思決定支援」と呼ばれています。
以前は、後見人等は、「ご本人のとって好ましいと思われる内容を後見人等が決定し、実行する」ことが主流でした。しかしながら、このような方法では成年後見制度を利用されているご本人が制度利用のメリットを実感できないとして、ご本人の意思を尊重する方向への転換が求められています。
最近の考え方では、財産管理、身上監護の両方について、ご本人の意思を尊重して業務を行うことが求められています。特にご本人の施設入所やそれに伴う自宅の処分など、ご本人の生活環境に大きな影響を与える場面については、ご本人の意向を尊重して、慎重な対応が求められます。「経済的な利益」のみで判断をしてはなりません。また、後見人等の選任や交代の場面においても、ご本人の意向を尊重するよう、運用が変化してきています。もちろん、経済的な問題などにより、ご本人の希望を全て実現することができないこともありますが、後見人等には、なるべくご本人の希望を実現できるよう、活動することが求められています。
ご本人の意思の確認方法について、類型が保佐・補助の方であれば、ご本人が、一定程度は、自身の意向を示すことができるはずですので、その意向を踏まえ、保佐・補助の業務を行っていくことになります。また、後見類型の方であっても、コミュニケーションの方法を工夫すれば意思を確認することが可能な方もいらっしゃいます。コミュニケーションの方法を工夫するなどして、ご本人の意向を把握することが必要です。また、意思表示が困難な方の場合であっても、過去の生活歴などから、ご本人の希望を推測することが求められます。
現在、厚生労働省の事業で後見人等候補者向けの意思決定支援研修が実施されており、多くの後見人等候補者が意思決定支援の方法を学んでいます。また、家庭裁判所も、後見人等に求める報告書に意思決定支援に関する項目を設けるなど、運用を変更しつつあります。このように、本人に代わって意思決定を行うという「代行決定」から、本人の意思を尊重し、その意思決定を支援する「意思決定支援」へ、後見の実務は変わりつつあります。
なお、後見人等はご本人の利益のために活動をします。後見人等は、ご本人のご家族の利益ために活動するわけではありません。成年後見制度を利用されている方のご家族の中には、「後見人等が家族の希望を聞いてくれない」とのご不満を持たれる方もいらっしゃるかと思います。しかしながら、後見人等は「ご本人が望まれているか。ご本人に利益があるか。」という観点から判断を行うことになります。ご家族の希望される方針で動くわけではないということをご了解いただければと思います。
- 本人に代わって意思決定を行うという「代行決定」から、本人の意思を尊重し、その意思決定を支援する「意思決定支援」へ、後見等の実務は変わりつつある。
- 後見人等は、ご本人のご家族の希望を聞いて活動するわけではない。
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