「葬儀費用」は、相続した財産から支出をしてよいのでしょうか?
遺産分割に関するご相談を受けていると、しばしば、亡くなられた方の「葬儀費用」が問題になります。よくある争いとしては、「ある相続人が、遺産の一部を相続財産に充てて消費してしまった。これを返還すべきである。」というものです。この点について、裁判所はどのような判断を示しているのでしょうか。以下、ご紹介します。
原則・・・葬儀費用は喪主の負担となる
現在の、裁判所・実務の一般的な考え方は、以下のとおりとされています。
葬儀費用は、喪主が負担をすべきである。
原則として、喪主が、自身の財産から、葬儀費用を支出すべきであり、相続財産からの支出が許されるものではない。
例えば、裁判所は、以下のように説明をしています。
【名古屋高等裁判所平成24年3月29日判決】
葬儀費用とは、死者の追悼儀式に要する費用及び埋葬等の行為に要する費用(死体の検案に要する費用、死亡届に要する費用、死体の運搬に要する費用及び火葬に要する費用等)と解されるが、亡くなった者が予め自らの葬儀に関する契約を締結するなどしておらず、かつ、亡くなった者の相続人や関係者の間で葬儀費用の負担についての合意がない場合においては、追悼儀式に要する費用については同儀式を主宰した者、すなわち、自己の責任と計算において、同儀式を準備し、手配等して挙行した者が負担し、埋葬等の行為に要する費用については亡くなった者の祭祀承継者が負担するものと解するのが相当である。
なぜならば、亡くなった者が予め自らの葬儀に関する契約を締結するなどしておらず、かつ、亡くなった者の相続人や関係者の間で葬儀費用の負担についての合意がない場合においては、追悼儀式を行うか否か、同儀式を行うにしても、同儀式の規模をどの程度にし、どれだけの費用をかけるかについては、もっぱら同儀式の主宰者がその責任において決定し、実施するものであるから、同儀式を主宰する者が同費用を負担するのが相当であり、他方、遺骸又は遺骨の所有権は、民法897条に従って慣習上、死者の祭祀を主宰すべき者に帰属するものと解される(中略)ので、その管理、処分に要する費用も祭祀を主宰すべき者が負担すべきものと解するのが相当であるからである。
以上のとおり、葬儀費用は、喪主が支出することが原則とされています。喪主が、勝手に、相続財産から葬儀費用を支出した場合、喪主は、遺産分割の際に、支出した相続財産を返還するか、自分の遺産の取り分から支出した相続財産の分を差し引いて受け取るということになります。
なお、相続税の申告の際には、一定の葬儀費用を相続財産から控除することができます。相続の場合と扱いが異なりますのでご注意ください。
- 葬儀費用は、喪主が負担すべきものとされており、当然に相続財産からの支出が許されるものではないと考えられている。
例外①・・・葬儀費用を遺産から支出することについて、相続人全員の合意がある場合
一方で、上記の名古屋高等裁判所の判決は、葬儀費用の負担について、喪主負担にするという原則に対し、例外があることを認めています。その例外の一つが、「亡くなった方の相続人や関係者の間で葬儀費用の負担についての合意がある場合」です。
ただし、このようなケースでは、「合意があったのかなかったのか」が問題になることが多いです。「葬儀をした時点では全員が合意をしていたのだが、後の遺産分割の場面になって争いが生じる」ということもあります。葬儀をする時点で、「葬儀費用を相続財産から支出する」という内容の合意書をつくっているケースは少ないでしょうから、後の遺産分割の場面で「言った、言っていない」の争いになることが多いです。親族間の問題であり、かつ、口約束をすることも多い約束だとは思いますが、後に紛争になる可能性のあるケースでは、書面にするなどして証拠を残しておくことが重要になります。
- 「亡くなった方の相続人や関係者の間で葬儀費用の負担についての合意がある場合」には、相続財産から葬儀費用を支出することが認められる。
例外②・・・亡くなられた方が、生前に葬儀費用の準備をしていた場合
2つ目の例外は、「亡くなられた方が、生前に葬儀費用の準備をしていた場合」です。最近は「終活」の一環として、ご自身の葬儀費用の準備をされている方も増えていると思います。
この2つ目の例外に該当するケースとしては、以下のようなものが想定されます。
① 亡くなられた方が、生前、葬儀社との間で、葬儀に関する契約を締結し、費用を前払い(あるいは積み立てなど)をしていたケース
② 亡くなられた方が、どなたかに対し、「自分が亡くなった場合に備え、葬儀費用を支出することを委任する契約」を結んでいたケース
①については、最近、葬儀社などが「終活」として宣伝をするなどして、準備されている方も増えているのではないかと思います。通常、契約書が作成されますので、費用の前払いや積み立ての有無が争いになるケースは少ないと思います。ただし、喪主の方が準備していることを知らないと使うことができないので、生前に、喪主となるであろう方に、準備をしていることを伝えておくべきかと思います。
②についても、「死後事務委任契約」などと呼ばれる契約で、最近、生前に締結する方が増えている契約です。喪主になるであろう方と契約するケースもあれば、弁護士や司法書士などの専門職に委託するケースも増えています。特に身寄りのない方などは、専門職に依頼することが多くなるでしょう。この「死後事務委任契約」は、口約束ですることもできますが、契約の有無が争われるようなケースもありますので、契約書を作成することが望ましいですし、できれば公正証書で作成しておくことをお勧めします。公正証書遺言の作成などと同時に作成されるケースが増えています。
いずれも、自身が亡くなった後の相続人間の紛争を避けるために、「終活」の一環として、遺言の作成などとともに準備をしておかれるとよいかと思います。
- ①亡くなられた方が、生前、葬儀社との間で、葬儀に関する契約を締結し、費用を前払い(あるいは積み立てなど)をしていたケースや②亡くなられた方が、どなたかに対し、「自分が亡くなった場合に備え、葬儀費用を支出することを委任する契約」を結んでいたケースなどでも、被相続人の財産から葬儀費用を支出することが許されることがある。
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