「寄与分」とはどのような制度なのでしょうか?
太郎さんの相続人として妻花子さん、子一郎さん、子次郎さんの3人がいる事案で、花子さんが太郎さんの生前、太郎さんの自営業を無償で手伝っていた場合、この花子さんの無償労働を遺産分割の際に評価することが公平なのではないでしょうか。
このような事案で無償労働などをしてきた相続人を評価するため、昭和55年(1980年)の民法改正で導入された制度が「寄与分」です。
「寄与分」とはどのような制度なのか?
「寄与分」の制度は、相続財産のうちの一部を、被相続人の財産の維持や増加について特別の貢献をした者に先に渡して公平を図ったうえで、残りの財産を共同相続人(特別の寄与をした人を含む)で分配するというものです。上記のとおり、共同相続人による無償労働を評価するため、民法改正により付け加えられた制度です。
「寄与分」を主張できるのは共同相続人のみです。代襲相続があった場合、被代襲者(自身の親など)による寄与分も自分の寄与分に含んで主張できると考えられています。他方、相続人以外の方は、どれだけ多大な貢献をしていたとしても、寄与分により相続財産の一部を取得するということはできません。ただし、例えば、多大な貢献をした方が相続人の配偶者である場合、その相続人の寄与分として考慮するという事例は存在します。また、令和元年7月1日以降に発生した相続については、以下の「特別寄与料」の制度が適用されることがあり得ます。
民法の改正により、令和元年7月1日以降に発生した相続については、相続人ではない被相続人の親族で、被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした方(特別寄与者)が、相続人に対し、寄与に応じた額の金銭(特別寄与料)の支払を請求することができるようになりました(民法1050条)。この「特別寄与料」の制度は、「寄与分」の制度とは異なるものです。
この特別寄与料の支払について、相続人と特別寄与者の間で協議が調わないときや協議をすることができないときには、家庭裁判所の調停・審判の手続を利用することができます(調停を申し立てる場合「特別の寄与に関する処分調停事件」と呼ばれます。遺産分割調停の中で特別寄与料の審理をすることはできません。)。調停手続で話合いがまとまらず、調停が不成立となった場合には、自動的に審判手続が開始され、家庭裁判所が特別寄与料の有無や額を決定します。
なお、家庭裁判所での特別寄与料の請求は、特別寄与者が相続の開始と相続人を知った時から6か月以内であり、かつ、相続開始の時から1年以内にしなければならないとされています。この各期間を経過すると請求をすることができなくなります。
令和元年6月30日より前に発生した相続については、この「特別寄与料」の請求を行うことはできません。
「寄与分」が認められるための要件
「寄与分」についての民法の条文は以下のとおりです。
民法904条の2(寄与分)
1 共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし、第900条から第902条までの規定により算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。
2 前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、同項に規定する寄与をした者の請求により、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して、寄与分を定める。
3 寄与分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができない。
4 第2項の請求は、第907条第2項の規定による請求があった場合又は第910条に規定する場合にすることができる。
民法は、寄与分が認められるための要件として、以下の2点をあげています。
① ある相続人が、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法による寄与をしたこと。
② ①の相続人による「特別の寄与」により、被相続人の財産が維持又は増加したこと。
以下、それぞれについて説明をします。
① 被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法による寄与をしたこと
「被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付」への寄与、「被相続人の療養看護」への寄与は例示とされており、寄与の態様について限定はありません。
「労務の提供」については無償での労働力の提供か、正当な報酬が支払われていない状態での労働力の提供である必要があります。雇用契約を結ぶなどして正当な給与を受け取っている場合はここに含まれません。また「財産上の給付」についても贈与が基本であり、返還義務のある貸金契約はここに含まれません。「療養看護」については、特定の相続人による介護への従事により介護にかかる各種制度の利用料などを免れた場合に寄与分の対象になると考えられています。
「その他の方法による寄与」としては、被相続人が不動産を購入するにあたって特定の相続人が相当のお金を支出した事案、被相続人の不動産の売却にあたって特定の相続人が立ち退き交渉などを行った事案などがあげられます。
② 被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をしたこと
寄与分が認められるためには、「被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与」があったことが必要です。
この「特別の寄与」とは、被相続人とその相続人の身分関係に基づいて通常期待されるような程度を超えた貢献がある場合をいうとされています。また、寄与行為によって被相続人の財産が増加したか、維持されたという事実が必要であるため、精神的な援助は寄与分として考慮されないこととなっています。具体的には、無報酬・低報酬で被相続人の事業・農業等を手伝ったことによって従業員の雇用による賃金支出を免れたこと、無報酬・低報酬で扶養や療養看護を行ったことにより介護費用の支出を免れたこと、被相続人に対し扶養の範囲を超える医療費等の援助をしたこと等の事情がある場合に「特別の寄与」が認められうるとされています。
以上のように、「特別の寄与」は、典型的には資産を増加させた場合に認められることになりますが、寄与により財産を維持した場合や財産の減少を最低限にとどめた場合にも認められることがありうるとされています。
なお、相続開始後の相続財産の管理は寄与分の問題にはならないと考えられています。
寄与分の決め方
寄与分がいくらになるかは、共同相続人の協議によって決定することとなっています(民法904条の2第1項)。協議が整わない場合は、寄与者の請求により、家庭裁判所が寄与分の価値を算定します(同条2項)。実際には、遺産分割の調停や審判の中で審理されることとなります。
家庭裁判所による寄与分の算定基準について、法律は「寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して、寄与分を定める」としています(民法904条の2第2項)。実際に寄与者が支出した財産の額をそのまま寄与分の額として認定するわけではありません。
なお、「寄与分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができない」とされています(民法904条の2第3項)。寄与分を算定するにあたり、被相続人の意思に反することがないようにするため、このような条項が規定されています。
寄与分の請求期限
原則として、遺産分割が完了するまでの間は、いつでも寄与分の主張をすることができると考えられています。ただし、以下の点に注意が必要です。
- 遺産分割が完了した後は、特別の事情がない限り遺産分割をやり直すことはできません。そのため、すでに遺産分割が成立した後から寄与分の請求をすることはできません。
- 寄与分について争いがある場合、最終的には家庭裁判所が判断を行います。このとき、家庭裁判所に対し、寄与分が発生することを示す証拠の提出が必要になります。通常、時間が経てば経つほど証拠は減っていきますので、証拠の提出が難しくなる可能性があります。
- 令和3年の民法改正により、被相続人の死亡から10年を経過した後は法定相続分によって画一的に処理されることになり、原則として、寄与分の主張をすることができなくなります(民法904条の3)ので注意が必要です。
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