成年後見制度を利用するよう勧められたのですが、利用したくありません。どのような不利益・不都合が考えられるのでしょうか?
国の方針などもあり、銀行の窓口や地域包括支援センター・社会福祉協議会・市区町村の窓口などで「成年後見制度を利用するようにして下さい」と言われる機会が増えています。弁護士や司法書士などの専門家に相談をした際に「成年後見制度の利用が必要です」とアドバイスされるケースもあるでしょう。
しかしながら、成年後見制度に関しては「家族がいるのに成年後見制度を利用する必要はあるのか?」「家族以外が後見人等として関与をするのは好ましくないのではないか?」「成年後見制度を利用すると費用がかかるのではなないか?」「後見人等による不祥事の問題があるのでは?」などの理由により、可能であれば利用を回避したいと考える方も多いと思います。ここでは、成年後見制度を利用しないことにより、どのような不利益が考えられるか、説明をさせて頂きます。
預貯金の引き出しができなくなる
「ご本人のご家族が銀行の窓口でお金を引き出そうとしたところ、「成年後見人を選任するように」と指摘された。どのように対応をすればよいか相談したい。」というご相談をしばしばお受けします。銀行の窓口での指摘から成年後見制度の利用につながる事例は、それなりに多いように感じられます。一方「銀行の窓口で成年後見制度を利用するよう求められたが、成年後見制度を利用せずに何とか対応することはできないのか?」というご相談を受けることもしばしばあります。ご本人が認知症などにより判断能力を失っているケースにおいて、ご本人のご家族などが、ご本人の預金の引き出しなどを行うことをできる方法はあるのでしょうか?
この点について、回答としては「各金融機関の対応による」としか言えません。事情を説明すればご家族による引き出しを認める金融機関もある一方で、「成年後見人を選任しない限り取引には応じない」という金融機関もあります。最近は、以前に比べ、厳格に判断を行う金融機関が増えているように感じられます。なお、全国銀行協会は、令和3年2月18日に以下の指針を公表しています。
【金融取引の代理等に関する考え方および銀行と地方公共団体・社会福祉関係機関等との連携強化に関する考え方(抜粋)】
① ご本人との取引について
- 認知判断能力の低下した本人との取引においては、顧客本人の財産保護の観点から、親族等に成年後見制度等の利用を促すのが一般的である。
- 上記の手続きが完了するまでの間など、やむを得ず認知判断能力が低下した顧客本人との金融取引を行う場合は本人のための費用の支払いであることを確認するなどしたうえで対応することが望ましい。
② ご本人のご家族との取引について
- 親族等による無権代理取引は、本人の認知判断能力が低下した場合かつ成年後見制度を利用していない(できない)場合において行う、極めて限定的な対応である。成年後見制度の利用を求めることが基本であり、成年後見人等が指定された後は、成年後見人等以外の親族等からの払出し(振込)依頼には応じず、成年後見人等からの払出し(振込)依頼を求めることが基本である。
- 本人が認知判断能力を喪失していることを確認する方法としては、本人との面談、診断書の提出、本人の担当医からのヒアリング等に加え、診断書がない場合についても、複数行員による本人面談実施や医療介護費の内容等のエビデンスを確認することなどが考えられる。対面での対応が難しい場合には、非対面ツールの活用等も想定される。
- 認知判断能力を喪失する以前であれば本人が支払っていたであろう本人の医療費等の支払い手続きを親族等が代わりにする行為など、本人の利益に適合することが明らかである場合に限り、依頼に応じることが考えられる。
- 無権代理の親族等からの払出し依頼に応じることによるリスクは免れないものの、真に本人の利益のために行われていることを確認することなどにより、当該リスクを低減させることができる。
- 預金が僅少となり、投資信託等の金融商品しかまとまった資産として残っていない顧客の医療費や施設入居費、生活費等の費用を支払うために、親族等から本人の保有する投資信託等の金融商品の解約等の依頼があり、やむを得ず対応する場合、基本的には上記の預金の払出し(振込)の考え方と同様であるが、投資信託等の金融商品は価格変動があることから、一旦、解約等を行った場合、預金と異なり、原状回復が困難である。この点に鑑み、金融商品の解約等については、より慎重な対応が求められる。
全文は、こちらをご覧ください(全国銀行協会(外部サイト)にリンクしています。)。
ご本人がお元気なうちであれば、支払を口座振替にしておくなどの対応をすることも考えられますが、ご本人が判断能力を失ってしまった後は、各金融機関の対応次第となります。金融機関の対応次第では、「成年後見制度を利用しなければご本人の預貯金の引き出しなどを行うことができなくなる」ということにもなりかねません。成年後見制度を利用せずに対応をする方法は、現時点ではありません。
不動産の売却などの手続ができなくなる
不動産の売却は「契約」です。契約の当事者が判断能力を完全に失っている場合、その契約は無効となりますし(民法3条の2)、判断能力に問題のある方との契約は取消の対象になることがあります(民法9条、13条など)。契約が無効になったり取り消されたりするリスクがあるため、通常、契約の相手方は、判断能力に問題のありそうな方との契約は行わないでしょう。
特に不動産の売却においては、通常、司法書士などの専門家が取引に関与をすることになります。当事者の間では契約の合意ができていたとしても、専門家の目線から見て契約当事者の判断能力に問題がありそうな場合、その契約を止めるという判断もあり得ます。成年後見制度を利用せずに「判断能力のない方を一方の当事者とする契約」を成立させることはできません。
この「契約を成立させることができない」という問題を回避する方法はありません。
老人ホーム・グループホームなどへの入所契約をすることができなくなる
老人ホーム・グループホームなどへの入所契約も「契約」です。理屈上は、不動産の契約などと同様、ご本人が判断能力を失っているような場合は、契約を成立させることはできません。
ただし、実際には、ご家族の方が対応することで入所契約を成立させているケースも多くあります。ご家族が必要な書類を作成し、費用も支払うのであれば、ご本人の判断能力に関係なく入所を認めるという対応をする老人ホームなどもあるでしょう。
ただし、法律上は、「ご本人に判断能力がないと契約は成立しない」ということには注意が必要です。老人ホーム・グループホームなどの側からの「成年後見制度を利用しなければ契約を結ぶことができない」との指摘は正しい物であり、「家族による同意でOKのはずだ」と主張することはできません。また、成年後見制度を利用しない場合、何らかのトラブルが発生した場合には、契約が無効などとして争われるリスクはあります。老人ホーム・グループホーム側の運用により、成年後見制度を利用しなくとも問題ないケースもありうることは事実ですが、このことは、「成年後見制度を利用しなくても大丈夫だ」ということとイコールではありませんので、注意が必要です。
遺産分割などの手続を進めることができなくなる
遺産分割などの手続を進めるためにも判断能力が要求されます。判断能力のない方が遺産分割の協議書にサインをしたとしても、その協議書は無効になります。遺産分割の協議を成立させることができなくなる結果、不動産の名義の変更や被相続人(亡くなられた方)名義の預金の解約などができなくなってしまいます。
この問題への対策として、「そもそも遺産分割をせずに放置をする」という対応をすることも考えられます。遺産分割を放置した場合にどのようになるかは、以下のリンク先をご覧ください。
ただし、遺産分割を放置したとしても相続税の申告の問題などは発生しますし、遺産分割を放置した結果、いつまでたっても被相続人の財産を引き出すことができなくなります。相続人全員が遺産分割をしないことに合意をしているケースで、あえて、遺産分割をするよう指摘する必要はないかと思いますが、いつまでも放置でよいのか、考えなければなりません。相続人のうちのどなたか1人が「遺産分割をしたい」と申し出た場合には、成年後見制度を利用しなければならないことになります。
上記のような不利益がなければ成年後見制度を利用する必要はないのか?
最後に、「上記のような不利益・不都合が発生しないのであれば、成年後見制度を利用しなくてよいのか」という問いにお答えをさせて頂きます。
専門家の回答としては、「ご本人が判断能力を失われている以上、ご本人のためには、成年後見制度を利用することが望ましい」ということになります。ただし、個人的には、現実にご本人に不利益・不都合が生じていない場合にまで、余計な手間と費用をかけて成年後見制度を利用することを強要する必要はないと考えています。ご家族らによる経済的搾取などによりご本人が不利益を受けているケースなどは別にして、ご家族らの支援により、ご本人が不自由なく生活をすることができており、特別問題も生じていないケースでは、無理に成年後見制度の利用を強制する必要はないのではないかと思われます。大事なのは、「成年後見制度を利用することがご本人の利益になるのか」という視点です。「ご本人のために成年後見制度(あるいはその他の制度)を利用することが適切なのか」検討することが重要であると考えています。
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