(元)交際相手などに対して中絶費用を請求することはできるのでしょうか?そのほかに請求できるものはありますか?

 (元)交際相手などの子を妊娠したが、様々な理由により「人工妊娠中絶」を選択することになった場合、その中絶の費用を(元)交際相手などに対して請求することはできるのでしょうか?また、中絶費用以外にも何らかの請求をすることはできるのでしょうか?

 この記事では、(元)交際相手などの子を妊娠し、中絶した場合にどのような請求をすることが考えられるのか、解説します。

中絶手術の費用の請求

 中絶の手術をしなければならなくなってしまった場合、この手術代や入院の費用を支出しなければならなくなります。費用は手術の内容や入院期間などによって異なってきますが、10万円から数十万円程度は必要になることが通常です。この中絶手術などの費用を相手方に請求できるか、問題となります。

 この問題について、一般的に、相手方に対しては、中絶手術などにかかった費用の半額を請求することができると考えられています。

 なお、上記は、合意の上で性行為が行われた場合の説明になります。性行為を強要された場合などは、中絶費用の全額を請求できるケースもあります。詳しくは、弁護士にご相談ください。

慰謝料の請求

 (元)交際相手などとの子を中絶せざるを得なくなった場合、これによって精神的な損害が発生したとして慰謝料の請求をすることが考えられます。この点についての回答としては、「慰謝料の請求が認められる場合と認められない場合がある」となります。以下、解説します。

 まず、性行為について合意がないケース(暴力や脅迫によって性行為を強要された場合など)については、性行為を強要したことについて、慰謝料の請求が認められます。(元)交際相手との関係でも性行為について合意がないことを証明できれば慰謝料の請求をすることができます。この場合、妊娠をしなかったとしても慰謝料の請求が認められることになりますが、妊娠、中絶をしたという事実があると、慰謝料の額が増額される方向に評価されます。また、だまされて性行為をさせられたケースでも、だまされたことを証明することができれば、慰謝料が発生する可能性があります。この場合も、性行為そのものについて慰謝料が認められ、妊娠、中絶の事実は、慰謝料を増額させる要素として考慮されることになります。

 一方で、性行為について合意のあるケースでは、常に慰謝料の請求が認めらるということはありません。性行為について合意のあるケースでは、性行為そのものについて慰謝料の請求をすることはできないため、慰謝料の請求をする場合には、何らかの相手方の行為によって精神的な損害が発生したことを証明することが必要になります。裁判所の判断では、妊娠発覚後に適切な対応をせずに中絶をするかどうかの話し合いに応じなかったケースや中絶を強要したケースなどで、慰謝料の請求を認めたものがあります。例えば、裁判所は、以下のように説明をしています。

【東京高等裁判所平成21年10月15日判決】

 控訴人(注:男性)と被控訴人(注:女性)が行った性行為は、生殖行為にほかならないのであって、それによって芽生えた生命を育んで新たな生命の誕生を迎えることができるのであれば慶ばしいことではあるが、そうではなく、胎児が母体外において生命を保持することができない時期に、人工的に胎児等を母体外に排出する道を選択せざるを得ない場合においては、母体は、選択決定をしなければならない事態に立ち至った時点から、直接的に身体的及び精神的苦痛にさらされるとともに、その結果から生ずる経済的負担をせざるを得ないのであるが、それらの苦痛や負担は、控訴人と被控訴人が共同で行った性行為に由来するものであって、その行為に源を発しその結果として生ずるものであるから、控訴人と被控訴人とが等しくそれらによる不利益を分担すべき筋合いのものである。しかして、直接的に身体的及び精神的苦痛を受け、経済的負担を負う被控訴人としては、性行為という共同行為の結果として、母体外に排出させられる胎児の父となった控訴人から、それらの不利益を軽減し、解消するための行為の提供を受け、あるいは、被控訴人と等しく不利益を分担する行為の提供を受ける法的利益を有し、この利益は生殖の場において母性たる被控訴人の父性たる控訴人に対して有する法律上保護される利益といって妨げなく、控訴人は母性に対して上記の行為を行う父性としての義務を負うものというべきであり、それらの不利益を軽減し、解消するための行為をせず、あるいは、被控訴人と等しく不利益を分担することをしないという行為は、上記法律上保護される利益を違法に害するものとして、被控訴人に対する不法行為としての評価を受けるものというべきであり、これによる損害賠償責任を免れないものと解するのが相当である。

ただし、裁判所が慰謝料の請求を認めるかは、事案によって異なります。「この事実があれば慰謝料が認められる」というものはありませんので注意が必要です。

その他に請求することのできる項目はあるのか?

 中絶の費用として、妊娠中の通院の費用、中絶後の通院の費用、通院の際の交通費、入通院により働くことができなくなった分の休業損害など、実際に発生した費用を請求できる可能性があります。中絶手術により後遺症が残った場合には、後遺症についての請求ができる場合もあります。また、子と父親の親子関係を確定するためのDNA鑑定などの費用の一部の請求が認められたケースもあります。また、少数ですが、子の供養料の一部の請求を認めた事例もあります。慰謝料が認められるケースなどでは、弁護士費用(の一部)の請求が認められることもあります。

 これらの請求が認められるかは事案によります。裁判で争う場合には、かかった費用を証拠によって証明するとともに相手方の行為と損害との間に因果関係があることを証明することが必要になります。

気を付けなければならないこと

 ここでは、中絶に関する費用を請求する場合に気を付けなければならないことをご説明します。

① 証拠を残しておく

 特に裁判所の手続によって中絶費用を請求する場合、証拠が必要になります。例えば、入院費用が発生したことについては、病院の領収証などが証拠となります。これらの書類は、捨てずに保管するようにして下さい。

 また、慰謝料の請求をするケースでは、メールやラインのやり取りなどが証拠となる場合があります。録音、録画、写真なども証拠になりえます。これらを残しておくこと自体が苦痛と感じられるかもしれませんが、裁判手続きを利用する場合は証拠が重要になりますので、消さずに残しておくことが重要です。

② 費用倒れになるリスクがある

 特に慰謝料が発生しないケースでは、請求の額が小さくなり、弁護士に依頼をして裁判をしても、費用の方が多く発生してしまい、費用倒れになってしまうリスクがあります。事案によっては、なるべく交渉で対応をしたり、ご自身で裁判所の手続を利用するなども検討しなければならなくなる場合があります。

③ 相手方がの情報がなければ請求をすることはできない

 相手方の連絡先が分からなければ相手方と交渉することができません。また、裁判所の手続を利用する場合、相手方の氏名と住所が必要になります。特に中絶に関して費用や慰謝料を請求するケースでは、相手方の氏名や住所などがわからないというケースが多くあります。

 相手方の氏名や住所がわからない場合、相手方の電話番号がわかれば、弁護士会の照会などにより、相手方の氏名や住所が判明する場合もあります。一方で、相手方のラインのアカウントしかわからないというケースでは、相手方の特定は難しくなります。性行為を強制された事案などで警察が捜査をしている事案では、警察の捜査により相手方の住所などが判明する場合もあります。このようなケースでは、刑事手続きの中で費用や慰謝料の請求を行っていくことも考えられます。一方で、警察の捜査が入らないケースでは、残念ながら、相手方の特定は難しいことが多いです。現状、弁護士から紹介をしてもラインのアカウントから氏名や住所の回答を得ることは難しくなっています(ライン株式会社が回答を拒否する傾向にあります。)。相手方の氏名や住所がわからない場合、裁判所の手続の利用は難しく、請求を断念するということにもなりかねません。相手方と連絡が取れなくなる前に、相手方の住所・氏名・連絡先を把握することが重要になります。

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