高齢者の消費者被害にはどのように対応をすればよいのでしょうか?

 成年後見制度などの利用を検討される際に、「消費者被害を防止したい」、「すでに消費者被害にあってしまっており、被害を回復したい/被害の拡大を防ぎたい」という動機をお持ちの方もいらっしゃると思います。

 それでは、実際に、どのような消費者被害が生じているのでしょうか。特に高齢の方が被害を受けるケースを中心に、どのような被害が生じているのか、消費者被害を防ぐためにどのような制度を利用することができるのかなどについてお話しします。

どのような類型の消費者被害が多いのか?

 「独立行政法人 国民生活センター」のウェブサイトによると、高齢者の消費者被害の特徴として、以下の点があげられています。

・「お金」「健康」「孤独」に不安をお持ちの高齢者の方が多く、これらに関する商品・サービスを購入させようとするケースが多い。
・ご高齢の方は自宅にいらっしゃることが多いため、自宅への訪問販売や電話での勧誘が多い

 また、最近では、スマートフォンをお持ちの高齢者の方も多いため、スマートフォンを通じた消費者被害が増えてきているのも特徴です。

 具体的には、以下のような方法での勧誘により、多くの消費者被害が生じているとされています。

① 電話勧誘販売

 販売業者が消費者の自宅などに電話をし、商品やサービスを販売する方法です。消費者側からの問い合わせを行っていないにもかかわらず、いきなり電話をかけてくるケースがほとんどです。

 説明不足があったり、虚偽の説明をしたり、強引な勧誘があるなどして問題になるケース多くあります。中には、「お金がない」と言って断っているにもかかわらず、借金をさせてまで購入させるようなケースも見受けられます。

② 家庭訪問

 販売業者が消費者宅を訪問し、商品やサービスを販売する方法です。訪問を要請していないにもかかわらず、販売業者が突然家庭訪問をしてきて、消費者を勧誘してくるケースがほとんどです。

 家庭訪問の場合も虚偽説明や説明不足が問題になる他、商品を購入するまで帰らないなど、長時間に及ぶ勧誘や強引な勧誘の問題が生じています。「水道管の無料点検だ」などと言って自宅に入り込み、点検料などとして高額の費用を請求するケースも報告されています。

③ インターネットなどによる通信販売

 最近では、スマートフォンの普及などにより、高齢の方のインターネット利用率が増加しています。これに伴い、高齢の方がインターネット上の通信販売を利用することも増えています。

 しかしながら、インターネット上には虚偽の説明もあふれていますし、「無料」と表示しながら利用料を徴収するようなウェブサイトも存在します。また、個人情報を抜き取られるなどして、架空請求の被害にあってしまうこともあります。

④ 次々販売

 一人の消費者に、次から次へと契約をさせる方法です。同じ業者が同じ商品を大量に契約させることもあれば、複数の業者が訪問をしてきて次々に契約をさせるケースもあります。

 不要な商品を大量に購入させられて老後の生活資金を失ってしまうケースや、借金をしてまで購入をしてしまい、生活が破綻してしまうようなケースも見られます。「自宅に大量の布団が置かれている」など、不審な点を発見されましたら、すぐに消費生活センターや専門家に相談されることをお勧めします。

⑤ 訪問購入

 業者が自宅を訪問するなどして、自宅の物品を購入していくというものです。「不用品の回収」などと言って自宅に上がり込み、自宅内にある物品を、相場よりも安い価格で買い取っていくという被害が報告されています。

⑥ かたり商法(身分詐称)・還付金詐欺など

 「市役所職員」などを名乗って商品やサービスの販売などを勧誘する方法です。市役所などの公的機関の職員が、商品の販売などを勧誘することは通常ありません。詐欺の可能性もありますので、信用すべきではありません。

 また、いわゆる「オレオレ詐欺」や「還付金詐欺」による被害も続いています。

 不審な勧誘には応じず、各地の消費生活センター、警察、弁護士などの専門家に相談するようにして下さい。

 「国民生活センター」のウェブサイトには、これ以外にも多数の事例が掲載されています。ぜひ、一度ご覧ください。

 なお、「国民生活センター」のウェブサイトには、「高齢者の消費者トラブルを防ぐための見守りチェックリスト」が公表されています。具体的なチェック内容としては、以下の項目があげられています。

【ご自宅の様子について】

  • 家に見慣れない人が出入りしていないか
  • 不審な電話のやり取りがないか
  • 家に見慣れないもの、未使用のものが増えていないか
  • 見積書、契約書など不審な書類や名刺などがないか
  • 家の屋根や外壁、電話機周辺などに不審な工事の形跡はないか
  • カレンダーに見慣れない事業者の名前などが書き込まれていないか

【ご本人の様子について】

  • 定期的にお金をどこかに支払っている形跡はないか
  • 生活費が不足したり、お金に困っている様子はないか
  • 何を買ったか覚えていないなど、判断能力に不安なはないか

これらのポイントを参考にしつつ、不審な事情があれば、できる限り早く、各地の消費生活センターや弁護士などの専門家に相談されることをお勧めします。

消費者被害への対応方法

 消費者被害については、特定商取引法や消費者契約法などの法律により、消費者救済の制度が設けられています。消費者被害にあってしまった場合には、これらの制度を利用して被害の回復をすることができないか、検討をしていくことになります。

① クーリングオフ

 一旦、契約の申し込みや契約の締結をした後であっても、一定の期間内であれば無条件で契約の申し込みを撤回したり、契約の解除をしたりすることができるという制度です。

 常に、どのような契約でも「クーリングオフ」を利用できるというわけではなく、法律で定められた契約類型に限り、クーリングオフが認められています。具体的には、以下のような契約でクーリングオフを利用することができます(下記の他にも各法律でクーリングオフの制度が定められていることもあります。)。

期間契約の類型
8日間訪問販売
電話勧誘販売
特定継続的役務提供(エステ・美容・語学教室・家庭教師・学習塾・パソコン教室など)
訪問購入
20日間連鎖販売取引(マルチ商法)
業務提供誘引販売取引(内職商法など)

 注意点は以下のとおりです。

  • クーリングオフは、書面か電磁的方法(メールなど)によって行います。送ったという記録を必ず残しておくようにしましょう。
  • 事業者から提供された書面に不備がある場合には、クーリングオフの期間が延長されることがあります。
  • 通信販売などではクーリングオフの制度の適用はありません。「どのような契約でもクーリングオフで対応できる」と考えてしまうと、対応を誤ってしまうことになります。

上記の対応は、ご自身で行うことは難しいかもしれません。ご自身での対応が難しい場合には、消費生活センターや弁護士などの専門家にご相談ください。ただし、クーリングオフには期限がありますので、期限を過ぎてしまわないよう、ご注意ください。

② 契約の取消し・解除

 一度契約を締結してしまった場合であっても、事情によっては、契約が無効になったり、契約を取り消したり、解除したりすることができる場合もあります。民法では、錯誤・詐欺・脅迫などによって契約を締結してしまった場合に契約の取消しができると規定されていますが、さらに、事業者と消費者の間の契約については、消費者契約法という法律が適用され、取り消すことのできる契約の範囲が拡大されています。

 例えば、高齢の方の契約については、事業者が、「当該消費者が、加齢又は心身の故障によりその判断力が著しく低下していることから、生計、健康その他の事項に関しその現在の生活の維持に過大な不安を抱いていることを知りながら、その不安をあおり、裏付けとなる合理的な根拠がある場合その他の正当な理由がある場合でないのに、当該消費者契約を締結しなければその現在の生活の維持が困難となる旨を告げること。」により消費者が困惑し、「それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。」とされています(消費者契約法4条3項5号)。

 なお、これらの法律の適用の可否などの判断は、難しいところがあります。まずは、各地の消費生活センターや弁護士などの専門家にご相談されることをお勧めします。

③ 成年後見制度を利用している場合

 ご本人が成年後見制度を利用している場合に、ご本人が消費者被害にあわれた事案では、成年後見人・保佐人・補助人が、適切に取消権を行使することにより、消費者被害に対応できる場合があります(ただし、保佐人・補助人については、権限の範囲内でのみ業務を行うことができます。また、任意後見人には取消権がありません。)。取消権についての詳しい説明は、以下のリンク先をご覧ください。

どこに相談をすればよいか?・・・ご自身で被害に気付いた場合

 高齢の方が消費者被害にあっていることに気づいた場合、周囲の方が消費者被害に気付いた場合、どこに相談をすればよいのでしょうか。まず、ご自身で被害に気付かれた場合の対応方法についてご説明します。

① 弁護士などの専門家に相談する

 消費者被害にあわれたことに気づかれたら、遠慮なく、弁護士などの専門家にご相談ください。どのような対応がありうるのか、被害を回復することができるのか、今後被害にあわないようにするにはどのようにすればよいかなどについてご説明をさせて頂きます。

② 消費生活センターに相談をする

 「専門家に相談をすればよい」と言っても、そのハードルが高いと感じられる方もいらっしゃると思います。費用について懸念される方も多いでしょう。

 消費者トラブルについては、各市区町村・都道府県が「消費生活センター」を設置しています。「消費生活センター」は行政が運営する組織で、利用に費用は掛かりません。「消費者被害にあったかもしれない」と感じられた場合は、まず、お近くの「消費生活センター」にご相談されることをお勧めします。

 なお、電話でのご相談も可能で、電話番号「188」番が、「消費者ホットライン」となっています。警察や救急と同じく、全国一律の番号で架けることができますので、こちらもご利用ください。

③ その他の行政機関に相談をする

 例えば、普段からご相談されている「地域包括支援センター」などがあれば、こちらに相談をすることも可能です。「地域包括支援センター」も「消費生活センター」も、どちらも行政の組織ですから、必要に応じ、連携することが可能です。最近では、地域包括支援センターなどと弁護士などの専門職とのつながりもできてきていますので、専門職への連携も含めて、適切な対応をすることが期待できます。

 なお、「消費者トラブルを解決する」などと言って勧誘をしてくる悪徳業者もいることにご注意ください。「被害金を取り返す」などと言って、報酬の支払いを迫り、さらに被害が拡大するというケースも発生しています。怪しい事業者に騙されることなく、まずは、信頼のできる行政の組織に相談をされることをお勧めします。

どこに相談をすればよいか?・・・周囲の方・支援者の方が被害に気付いた場合

 高齢の方の消費者被害は、ご本人が自分で気づかないことも多いかと思います。ご本人が気づかないうちに被害が拡大しているケースも多いでしょう。そして、被害から時間が経てば経つほど、被害の回復も難しくなっていきます。高齢の方の消費者被害を防止するためには、周囲の方・支援者の方による早期発見が重要になります。

 周囲の方・支援者の方が弁護士などの専門職とつながっておられる場合は、その専門職にご相談いただければと思います。ご本人の状況に応じ、ご本人と法律相談をすることも考えられますし、ご本人の能力が相当低下している場合には、成年後見制度の利用などにつなげていくことを検討します。

 一方、弁護士などの専門職とつながりをお持ちの支援者の方はまだ多くないのではないかと思います(弁護士側の課題でもあります。)。知り合いではない専門職にいきなり連絡をするのは、ハードルが高いと感じられる方も多いと思います。そのような場合には、まず、行政の「地域包括支援センター」や「消費生活センター」(地域によっては「権利擁護センター」を設置している地域もあります。)などにご相談を頂ければと思います。このような、各行政機関自身も情報を蓄積していますので、各行政機関がそのまま対応をすることもありますし、各行政機関からつながりのある専門職に事案をつなぎ、対応をするということも考えられます。

 ご高齢の方の消費者被害については、早期に発見することが重要です。早期に発見をしていただければ、後は支援者のネットワークを通じて、必要な組織や専門職につながっていきます(行くはずです)。被害を発見されたら、迷わず、行政などに連絡をされるようにして下さい。そして、弁護士も、支援者のネットワークの一員に加えて頂ければと願っています。

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