成年後見等に関する手続きを専門家に依頼をせず、自分で手続きを進めることは可能なのでしょうか?

 法律相談をお受けしていると、しばしば、「弁護士に依頼をせず、自分で手続きを進めたい」とおっしゃる方がいらっしゃいます。このご質問に対する一般的な回答は以下のとおりです。

  • 日本の法律では、裁判所などの手続を利用するにあたり、弁護士や司法書士などの専門家に依頼をする義務はありません。ご自身で手続きをすることは可能です。
  • 専門家の利用は、通常、費用が掛かりますので、ご自身で手続きをとることにより、専門家に依頼をする費用を節約できるメリットがあります。
  • 専門家に頼まなかったことによって不利益を受けることがあります。裁判所は、通常、ご本人であることをもって優遇してくれることはありません。不利益は自己責任となります。

以下、詳しく説明をしていきます。なお、以下の「1 統計はどのようになっているのか」は統計のご紹介になりますので、弁護士に依頼をすることのメリット・デメリットをご覧になられたい方は、「2 ご自身で手続きをされるメリット」以下をご覧ください。

統計はどのようになっているのか?

 まず、最初に、裁判所の各手続きを利用するにあたり、どの程度のケースで弁護士を代理人に選任しているのかについて、統計データをお示しします。

 なお、日本では、民事・家事の手続きで裁判所の手続きを利用するにあたり、弁護士の利用を強制する制度はありません。最高裁判所への上告などもご本人で行うことができます。裁判所の手続を利用する際に弁護士の利用を強制する制度を定めている国もありますが、日本ではそのような制度はありません。

 司法書士は、法務大臣の認定を受けた司法書士に限り、簡易裁判所において取り扱うことができる民事事件(訴訟の目的となる物の価額が140万円を超えない事件)などについて、代理人となることができます。

 各種手続きへの弁護士の関与率については、日本弁護士会連合会が統計を資料を作成しており、「弁護士白書」、「弁護士業務の経済的基盤に関する実態報告書」などで公表をしています。一部の統計は、日本弁護士会連合会のウェブサイトからも見ることができます。これらの統計は、裁判所が発表した統計を基に作成されています。

 この記事では、日本弁護士会連合会が公表している、2021年版のデータをご紹介させていただきます。

① 民事事件

 地方裁判所における民事訴訟の第一審の弁護士の選任率は、2020年は91.5パーセントとなっています。この数値は、最近増加傾向にあります。例えば、1995年の時点では80.1パーセントでした。訴える側(原告)と訴えられる側(被告)の両方が弁護士を選任しているケースが最も多いですが、訴える側(原告)のみ弁護士を選任していて、訴えられる側(被告)はご本人が対応されているというケースも一定程度あります。なお、地方裁判所の手続きでは、司法書士は代理人となることはできません。

 一方、簡易裁判所の民事第一審では、2020年の統計で、弁護士が代理人に選任されている割合は21.1パーセント、司法書士が代理人に選任されている割合は5.2パーセントとなっています。一方で、ご本人による訴訟が74.1パーセントとなっています。年によって代理人の選任率に上下がありますが、最近は、代理人の選任率が増加傾向にあるというわけではありません。

② 離婚調停・円満調停事件(夫婦関係調整調停)

 2020年の家庭裁判所における夫婦関係調整調停事件(離婚調停事件・円満調停事件)の弁護士の選任率は56.0パーセントとなっています。2006年の弁護士の選任率は22.9パーセントであり、弁護士の選任率は、毎年上昇しています。

③ 人事訴訟事件(離婚訴訟など)

 2020年の家庭裁判所における人事訴訟事件(離婚訴訟・離縁訴訟など)の弁護士の選任率は98.0パーセントです。こちらも弁護士の選任率は、年々増加傾向にあります。

 離婚事件については、調停の時点では弁護士の選任率は50パーセント程度であるが、離婚訴訟になるとほとんどのケースで弁護士が選任されているという点に特徴があります。

④ 遺産分割調停事件

 2020年の家庭裁判所における遺産分割調停事件の弁護士の選任率は79.7パーセントとなっています。遺産分割事件の弁護士の選任率には増減があります。

 なお、相続放棄などの家事事件や成年後見等の申立事件などについては、弁護士の選任率についての統計は作成されていません。

 以上の統計からは、地方裁判所の民事訴訟や離婚訴訟においては多くのケースで弁護士が代理人に就任している一方で、簡易裁判所の民事訴訟や家庭裁判所の調停では、ご本人で対応されているケースも相当数あるということがわかります。もちろん、地方裁判所や離婚訴訟の手続きをご本人でしてはならないということはありませんし、簡易裁判所や家庭裁判所の調停手続きを弁護士に依頼される方もいらっしゃいます。上記の統計は、参考としてご覧ください。

ご自身で手続きをされるメリット

 弁護士(・司法書士)に事件の処理を依頼せず、ご自身で対応することの最大のメリットは、弁護士(・司法書士)費用を節約できるという点でしょう。弁護士・司法書士に事件の処理を依頼すると、通常、着手金や報酬金が発生しますので、ご自身で対応をされる場合、これらを節約することができます。確かに、成年後見制度・任意後見瀬尾度などの利用には、それなりの費用が掛かりますので、なるべく費用を節約したいというお考えは理解できます。ただし、その分、相当の手間がかかります。詳しくは「ご自身で手続きをされるデメリット」をご覧ください。

Q
弁護士・司法書士に事件の処理を依頼したいのですが、費用を支払うことができません。自分で手続きをしなければならないのでしょうか?
A

 ご収入や資産が一定以下の方は、日本司法支援センター(法テラス)の民事法律扶助制度を利用することができ、弁護士・司法書士の費用の立替を受けることができることがあります。詳しい解説は以下のリンク先をご覧ください。

 また、各弁護士・司法書士によりますが、無料相談や着手金などの分割払いに応じる方もいらっしゃいます。事案によっては日本弁護士会連合会が用意をしている弁護士費用の援助制度を利用できたり、お持ちの保険契約に付帯されている弁護士費用特約などを利用できることもあります。

 費用の面でお悩みの方は、一度、弁護士・司法書士に相談されることをお勧めします。なお、法テラスの費用の立替制度の案内は、法テラスの地方事務所・コールセンターなどでも行われています。詳しくは法テラスのウェブサイトをご覧ください。

 なお、時々、「弁護士に頼まない方が、裁判所のサポートを得ることができるので、裁判所の手続を有利に進めることができる」とのご意見を聞くことがあります。確かに、裁判所の窓口では、裁判所の手続についての案内を受けることができます。特に家庭裁判所には、案内の冊子や書式なども置いてあったりします。ただし、裁判所は「どの手続きを利用すべきか?」「どうすれば有利になるか?」といった質問には答えてくれません。手続きの方法を説明するだけです。「裁判所が助けてくれる」と信じて不利益を受けても、自己責任となりますのでご注意ください。

 また、成年後見制度については、法務局や権利擁護センター(市区町村役場・社会福祉協議会など)などでも案内を受けることはできます。ただし、これらも基本的には制度の説明となり、「どのような手続きを利用することが有利か?」というような質問には答えてもらえないことが多いかと思います。

ご自身で手続きをされるデメリット

 弁護士(・司法書士)に依頼をしない場合の主なデメリットは以下のとおりです。

以下、解説をしていきます。

① 制度や運用を知らないことにより不利益を受ける可能性がある

 先ほどもお話ししたとおり、裁判所は助けてはくれません。法律や運用を知らなくて不利益を受けても、それは自己責任とされてしまいます。「法律は日本語で書いてあるから日本語が読めれば対応できる」と話される方もいらっしゃいますが、そもそも前提の知識がないまま法律を読むのは難しいですし、ある条文がどのような場面で適用されるのか判別することも難しいですし、条文には書かれていない先例や運用があったりもしますので、専門知識のないまま対応することは危険です。

 成年後見制度を利用する場合、相手方のいる手続きではないため、制度を知らないことにより「負ける」ということはありません。しかしながら、「家庭裁判所が候補者としてあげた人と違う人を成年後見人に選任した」「後見人を選任してもらったが、思っていた課題の解決につながらない」というケースはよくあります。その手続きを利用することが本当に課題の解決につながるのか、専門家に相談されることをお勧めします。

② 手間がかかる

 ご自身で手続きを進められる場合、裁判所の対応や書類の収集は、全てご自身でされる必要があります。これらは、相当、手間がかかるものです。成年後見・任意後見の手続をご自身で行われる場合、この「手間がかかる」という点が、最も大きな問題かと思います。

 まず、成年後見制度・任意後見制度を利用する場合の手続については、以下のリンク先をご覧ください。いずれの手続も、相当な手間がかかります。

 この成年後見等申立の手続について、家庭裁判所は「成年後見・保佐・補助申立ての手引」という冊子を作成しています。この冊子は、家庭裁判所の窓口で受け取ることもできますし、裁判所のウェブサイトから入手することもできます。ご自身で成年後見等の申立てをされることを検討されている方は、まず、この冊子を読んでみて頂ければと思います。まず、冊子を見て頂ければわかるかと思いますが、全体で50ページくらいある冊子になります。こちらの冊子は、読めばわかるように作成はされているのですが、量が多いうえ、慣れない手続きを進めなければならないため、大変だと感じられる方も多いかと思います。

 また、成年後見等の申立てでは、必要となる書類の量が多くなります。これらの書類も、慣れていない方には収集は大変かと思います。書類によって入手先も異なるため、慣れていないと収集は相当大変です。裁判所は、書類の収集を手伝ってはくれません。書類の収集の方法は教えてくれますが、ご自身で集めてくる必要があります。

 以上のとおり、成年後見等の申立てには、相当の手間がかかるということを覚えておいていただきたいと思います。

③ 余計な費用が掛かる可能性がある

 専門家が対応をすれば電話や郵送で対応できるものも、ご自身で進められる場合には、現地に出向くことが要求されるなどして、お金がかかることもあります。裁判所などから補正を命じられた場合などは、何度も裁判所に出向く必要があるかもしれません。また、ご自身で対応をされた後、途中から弁護士・司法書士に依頼をする場合、その費用も掛かります。成年後見等の申立ては、時間と手間と費用を掛ければどなたでもすることはできるのですが、ご自身で対応をする場合、かなりのご負担になることは覚悟しておいていただければと思います。

おわりに・・・特にご注意いただきたいこと

 以上のとおり、各手続きをご自身でされる場合には、メリットとデメリットがあります。最終的にはこれらのメリットとデメリットを比較され、ご自身で手続きを行うか、弁護士・司法書士に事案の対応を相談・依頼をするかを決めて頂くほかありません。

 その上で、特にご注意いただきたいことは以下のとおりです。

① 費用面で悩まれているのであれば、まず、一度、弁護士や司法書士にご相談されることをお勧めします

 先ほどもお話ししたとおり、法テラスの制度などを利用することができる場合もあります。法テラスの制度路利用できる場合にも、通常、一定の費用負担は発生しますが、その費用負担の内容をご理解いただいてから、弁護士・司法書士に依頼するか決断されることをお勧めします。

② 手続きの途中から弁護士・司法書士へ依頼する場合、デメリットが発生することも多くあります

 「まず自分で手続きを進めてみて、難しい場合は途中から弁護士・司法書士に依頼をしよう」と考える方もいらっしゃると思います。が、これはお勧めできません。まず、途中まで手続きを進められているとしても、弁護士・司法書士費用が安くなるということはあまりないと思います。むしろ、余計な手間がかかってしまい、費用のご負担が増えてしまう可能性もあります。さらに、事案によっては、既に取り返しのつかない状況になっていて、弁護士・司法書士が介入をしてもリカバリーをすることができないということもあり得ます。成年後見等申立ての場合、一度裁判所に書類を提出すると、裁判所の許可を受けない限り、途中でやめるということができないため、注意が必要です。事案にもよりますが、通常、途中で弁護士が入っても、家庭裁判所は申立ての取りやめを許可しません。

 もちろん、途中からの依頼をご相談いただくことは可能ですが、その場合、費用が高くなることがありうること、余計な費用が掛かる可能性があること、軌道修正できない可能性もあることなどをご理解いただいた上での受任となりますのでご注意ください。

③ 専門家以外に対応を依頼することは危険です

 裁判所の手続について代理権を持つのは、弁護士と、一定の場合に限り、司法書士や弁理士などの専門職のみです。無資格で裁判所の手続をサポートすることは違法です。また、本来裁判所の手続を行うことができない資格で裁判所の手続のサポートをすることも違法です。「弁護士(・司法書士)より安い」、「弁護士(・司法書士)にはできない処理をする」などの広告が出ていることもありますが、そもそもこれらの業務は違法な業務の可能性がありますし、不適切な処理が行われる危険もあります。必ず、必要な資格を持つ者に相談をすべきです。

 特に高齢者・障がい者の財産管理については、(残念ながら)詐欺的な事業者なども参入をしてきています。専門家ではない方のアドバイスで動くことは危険です。ご注意ください。

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