「任意後見制度」の利用を考えています。どのように手続きを進めればよいのでしょうか?
任意後見制度は、ご本人が元気な(十分に判断能力を有している)間に、将来のために、自身の財産の管理などをお願いする人(任意後見人)との間で契約を結んでおき、本人の判断能力が不十分となった後、契約に従い任意後見人が本人のために契約に定められた業務を行うという制度です。この制度を利用するための大まかな流れは、以下のとおりとなります。
① ご本人の判断能力が十分にあるうちに任意後見契約を結ぶ
② ご本人の判断能力に不安が生じた時点で、任意後見監督人選任の申立を行う
③ 任意後見監督人が選任されたら、任意後見契約の効力が発生する
詳しく説明をさせて頂きます。
任意後見契約の作成
① 契約書の作成方法・・・公正証書で作成しなければならない
任意後見契約は、公正証書で作成をしなければなりません(任意後見契約に関する法律3条)。公正証書以外で作成した任意後見契約は無効です。
なお、任意後見契約の作成時には、原則として、公証人は、ご本人と直接面談をしなければならないとされています(平成12年3月13日付 法務省民事局通達「民法の一部を改正する法律等の施行に伴う公証事務の取扱いについて」に記載があります。)。
任意後見契約は、ご本人と任意後見受任者(将来、ご本人の任意後見人となる方)との間で契約をします。契約ですので、ご本人が「この任意後見人候補者に自分の将来のことをお願いしたい」と考えることが必要ですし、任意後見人候補者の側も「将来、ご本人のために活動したい」と考えることが必要です。両者の意思の合致が必要です。ご本人・任意後見受任者のどちらか一方が希望するだけでは任意後見契約は成立しません。
② 任意後見の受任者(後見人候補者)
任意後見受任者は、原則として誰でもよいこととなっています。ご家族・身内の方が受任者となる場合もありますし、弁護士・司法書士・社会福祉士などの専門職が受任者となることもできます。社会福祉協議会、NPO法人などの法人が受任者になることもできます。ご本人から受任者にご依頼をしていただき、受任者が承諾をすれば、どなたでも任意後見受任者になることができます。ただし、法律上、以下の者は任意後見人に就任することはできないとされています(任意後見に関する法律4条1項3号)。
- 未成年者
- 家庭裁判所で法定代理人・保佐人・補助人を解任された方
- 破産者
- 行方不明の方
- 本人に対して訴訟をしている/過去にした方、その方の配偶者・直系血族(父母・子など)
- 不正な行為、著しい不行跡などにより、任意後見人の任務に適しないと家庭裁判所が認める方
なお、日本公証人連合会の統計によると、近親者が任意後見人候補者となるケースが7割程度、弁護士や司法書士などの専門職が任意後見人候補者となるケースが1~2割程度とされ、他には友人・知人、社会福祉法人、NPO法人などが候補者となるケースが報告されています。
③ 任意後見契約の内容
任意後見人に何をお願いするかも任意後見契約の中で決めることができます。通常、財産の管理と身上監護(介護サービス・医療サービスなどの契約・支払手続きなどを代行してもらうこと)を依頼する内容にすることが多いですが、その中の一部のみをお願いすることも可能です。契約は自由なので、法律に違反しない限り、自由に契約内容を作成することができます。契約の内容が法律に違反をしていないかは、公証人が確認をします。
任意後見人に報酬を支払うか、支払う場合報酬をいくらにするかについても任意後見契約の中で決めることができます。任意後見人受任者が合意をした場合、報酬を「なし」とすることもできます。他方、任意後見監督人の報酬を、任意後見契約の中で決めることはできません。任意後見監督人の報酬は、家庭裁判所が決定します。
④ 契約作成の手順
任意後見契約を利用する際には、以上の内容契約を、ご本人が元気なうち(十分に判断能力を持っているうち)に、公正証書で作成する必要があります。ご本人がすでに判断能力を失っている場合、任意後見契約を新たに作成することはできません。
任意後見契約の作成をお考えの方は、任意後見人候補者の方とよくご相談頂いた上で、公証人役場の予約を取るようにして下さい。契約書の内容について検討が必要な場合は、事前に弁護士や司法書士などにご相談ください。
なお、契約の効力が発生する前に任意後見契約を解除したい場合、ご本人、または、任意後見受任者は、いつでも、公証人の認証を受けた書面によって、任意後見契約を解除することができます(任意後見契約に関する法律9条1項)。
一方、任意後見人に就任した後は、ご本人、又は、任意後見人は、正当な事由がある場合に限り、家庭裁判所の許可を得て、任意後見契約を解除することができるとされています(同条2項)。
- 任意後見契約は、公正証書で作成をする必要がある。
- 任意後見契約では、後見人を誰にするか、後見人にどのような代理権を与えるか、任意後見人の報酬をどうするかなどを決める。
任意後見監督人の選任
① 任意後見契約の効力を発生させるために必要な手続き
任意後見契約は、契約を結んだだけでは効力は生じません。ご本人が、精神上の障がいによって判断能力が不十分な状態になり、家庭裁判所で任意後見監督人が選任された時点で、はじめて、任意後見契約の効力が生じることとなります。
なお、任意後見契約の効力の発生前から任意後見人候補者に財産管理をお願いしておきたいというニーズもあると思います。このような場合には、任意後見契約とは別に、財産管理の委任契約を結んでおく必要があります。公証人役場で任意後見契約を作成する際に、同時に、財産管理契約を公正証書で作成するということもよく行われています。また、任意後見契約はご本人が亡くなられると終了します。この場合も、別途、死後事務委任契約を結んでおくことにより、ご本人死亡後の手続を任意後見人(候補者)に任せることができます。この死後事務委任契約も、任意後見契約と同時に、公正証書で作成されるケースがあります。
② 任意後見監督人選任申立ての手続き
任意後見監督人の選任の申立手続きは以下のとおりです。
申立てをすることができるのは、ご本人、ご本人の配偶者、ご本人の四親等内の親族、任意後見受任者のいずれかです。ご本人以外の方が申し立てを行う場合、ご本人が判断能力を完全に失っているような場合を除き、ご本人の同意を得る必要があります。
申立ては、ご本人の住所地を管轄する家庭裁判所に行います。
申立てに必要な費用については、以下のリンク先をご覧ください。
任意後見監督人選任の申立ては、申立書をご本人の住所地を管轄する家庭裁判所に提出することによって行います。申立書の書式は、家庭裁判所のウェブサイトから入手するか、家庭裁判所の窓口で受け取ることができます。
申立書には、ご本人の戸籍謄本(全部事項証明書)、任意後見契約公正証書(の写し)、ご本人の成年後見等に関する登記事項証明書、ご本人の診断書(家庭裁判所の書式があります。家庭裁判所のウェブサイトなどで入手することができます。)、ご本人の財産に関する資料などを添付します。
任意後見監督人について、候補者がいらっしゃる場合は、その候補者の住民票又は戸籍の附票を提出する必要があります。候補者を定めずに申立てをすることもできます。任意後見監督人を誰にするかは家庭裁判所が決めますので、候補者を立てた場合も、候補者と異なる任意後見監督人が選任される場合もあります。
任意後見監督人には、弁護士・司法書士・社会福祉士などの専門職が選任されるケースが多いです。任意後見受任者本人や、その親族(任意後見受任者の配偶者、直系血族、兄弟姉妹)は任意後見監督人にはなれません(任意後見契約に関する法律5条)。
以上の申立書や添付資料などを参考に、家庭裁判所が任意後見監督人の選任手続きを行います。任意後見監督人が選任されると、任意後見契約の効力が発生し、任意後見人候補者が、正式に、任意後見人となり、活動を開始します。
- 任意後見契約は、ご本人が、精神上の障がいによって判断能力が不十分な状態になり、家庭裁判所により任意後見監督人が選任された時点で、はじめて、任意後見契約の効力が生じる。
- 任意後見監督人の選任申立ては、ご本人の住所地を管轄する家庭裁判所に対して行う。
任意後見契約の効力発生後の流れ
任意後見監督人が選任され、任意後見契約の効力が発生した後は、任意後見人は、任意後見契約の内容に従い、ご本人のため、財産の管理や身上監護を行います。
任意後見監督人は、任意後見人が任意後見契約の内容どおり、適正に仕事をしているか、監督します。任意後見人は、任意後見監督人からの指示にしたがい、財産目録などを提出するなどして、監督を受けます。また、ご本人と任意後見人の利益が相反する法律行為を行うときには、任意後見監督人がご本人を代理します。
任意後見監督人は、これらの事務について家庭裁判所に報告をします。家庭裁判所は、任意後見監督人からの報告を参考に、任意後見人が適正に活動をしているか、監督をします。
なお、任意後見監督人の報酬が発生します。任意後見監督人の報酬については、以下のリンク先をご覧ください。
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