誰が後見人(等)に就任するのでしょうか?私は後見人(等)になることができますか?

 成年後見制度の利用を検討される場合、「誰が後見人(・保佐人・補助人)になってくれるのか?」は大きな関心事だと思います。そして、しばしば「候補者ではない人が後見人に選ばれた」「親族の後見人を期待していたのに専門職が選ばれた」といった不満を聞くところです。

 ここでは、成年後見等の申立をする前に知っておくべき「家庭裁判所は、誰を、どのような基準で後見人等に選ぶのか」というテーマについてお話をさせて頂きます。

はじめに・・・誰が後見人(等)を決めるのか?

 後見人等の決め方は、法定後見の場合と任意後見の場合で異なります。

㋐ 法定後見

 家庭裁判所が後見人等を選ぶ。後見等申立の際に後見人等の候補者を推薦することはできるが、家庭裁判所が推薦された方を後見人に選ぶとは限らない。

㋑ 任意後見

 ご本人が、後見人候補者を選ぶ。ご本人と後見人候補者との間で任意後見契約を結ぶことになる。家庭裁判所が任意後見人を変更することは、原則としてない。

 このように、法定後見と任意後見の場合で、後見人等を選ぶ主体が変わります。「どうしてもこの人に後見人に就任してほしい」というご希望がある場合には、ご本人に判断能力があるうちに「任意後見契約」を締結しておく必要があります。以下、詳しく説明していきます。

任意後見の場合

① 任意後見の場合、ご本人が後見人を選ぶことができる

任意後見の場合、後見人はご本人が選ぶことになりますので、「予想外の方が後見人に就任する」という事態は、通常はありません。

 そのため、「この人に後見人になってほしい」という強いご希望がある場合には、お元気なうちに、任意後見契約を締結しておくことが必要になります。法定後見の場合も後見人等の候補者を申し出ることはできますが、後述のとおり、家庭裁判所が候補者を後見人等に選任するとは限りませんので、後見人等を指定したい場合には、任意後見制度を利用することが必要となります。

② 任意後見制度を利用する場合の注意点

 先ほどお話ししたとおり、任意後見制度を利用する場合は、ご本人が後見人を指定することができます。ただし、以下の点には注意が必要です。

㋐ 任意後見監督人を選ぶことはできない

 任意後見監督人を誰にするかは家庭裁判所が選びます。任意後見監督人の候補者を推薦することは可能ですが、家庭裁判所がその方を任意後見監督人に選任するとは限りません(家庭裁判所によっては、中立性を確保するため、あえてその候補者は選任しないという運用をとっている場合もあるようです。)。予想外の方が任意後見監督人に就任する可能性をなくす方法はありません。

㋑ 任意後見人が解任されることはありうる

 任意後見人が不正な行為をするなど、任意後見の任務に適さない事情がある場合は、家庭裁判所により任意後見人が解任されることがありえます(任意後見契約に関する法律8条)。

㋒ 任意後見契約を締結している場合にも法定後見が開始される場合がある

 任意後見契約が締結されている場合であっても、家庭裁判所は、「本人の利益のために特に必要」と認めた場合には(法定)後見等開始の審判をし、任意後見人候補者とは異なる後見人等が選任される可能性があります(任意後見契約に関する法律10条1項)。

  • 任意後見の場合、ご本人が後見人を選ぶことができる。
  • 任意後見の場合であっても、後見監督人は家庭裁判所が選ぶ、任意後見人が解任されることがありうる、任意後見を利用している場合であっても法定後見が開始されることもあるという点には注意が必要である。

法定後見の場合

① 家庭裁判所が後見人等を選任する

 法定後見の場合、後見人等を誰にするかは、家庭裁判所が決定します。

 確かに、(法定)後見等の申立ての際に、家庭裁判所に対して後見人等の候補者を申し出ることができます。後見等の申立の際には候補者を立てて申し立てをすることもできますし、候補者なしで申立てをすることもできるという運用になっています。候補者として、特定の専門職を希望することも可能です。弁護士、司法書士、社会福祉士など職種を希望する場合と、特定の個人を指定する場合の両方がありえます。また、「男性が良い」「女性が良い」などの希望を述べることもできます。これらの希望は、申立書に記載をしたり、裁判所での調査官や参与員との面談の際に伝えます。

 ただし、最終的な決定権限は家庭裁判所にあります「親族の方を候補者として申し立てたが、裁判所が弁護士・司法書士・社会福祉士などの専門職を選んだ」というケースは多くあります。「社会福祉士」を希望していたが「弁護士」が選任されたというケースもあります。希望が通らなかった場合に「成年後見制度の利用を取り止めたい」ということはできませんので、注意が必要です。

 また、「誰を後見人等に選任するか」という家庭裁判所の判断に対しては不服申立て(即時抗告)をすることはできません。家庭裁判所の決定が絶対ということになります。

 特に親族の方を候補者として成年後見等の申立てを行う場合、「家庭裁判所が候補者の方を後見人に選ぶとは限らない」ということを十分にご理解の上、申立てをお願いすることになります。この点は、申立ての手続をお手伝いする弁護士や司法書士の腕で何とかなるという問題ではありません。

② 後見等監督人について

 家庭裁判所が、「候補者(主にご親族)の方を後見人等に選任するが、専門職の後見監督人を選任する」というケースもあります。この場合も「後見監督人が選ばれるのであれば成年後見等の申立てを取り止めたい」ということができないので注意が必要です。後見監督人が選任された場合、後見監督人の報酬が発生します。

 さらに、家庭裁判所より、「候補者の方を後見人等に選任するが、「後見制度支援信託」あるいは「後見制度支援預金」を使うよう指示される」というケースもあります。「後見制度支援信託」・「後見制度支援預金」の説明は、以下のリンク先をご覧ください。

 以上のとおり、後見等申立にあたり「後見人等の候補者を立てることはできるものの、その候補者が後見人等に選任されるかはわからない。また、後見監督人が選任されるかどうかもわからない。」ことを十分にご理解いただく必要があります。特にご親族の方による申し立ての場合、希望通りにいかなかったとして後々トラブルになることが多いため、ご注意ください。

  • 法定後見の場合、後見人等を誰にするかは、家庭裁判所が決定する。
  • 後見等申立にあたり後見人等の候補者を立てることはできるものの、その候補者が後見人等に選任されるかはわからない。
  • 後見監督人を選任するかどうかも家庭裁判所の裁量となる。
Q
私は本人の子ですが、親のために成年後見の申し立てを行い、私が後見人に就任しようと考えていました。しかしながら、裁判所は後見人は弁護士が適切と言っています。私が後見人に就任できないのであれば成年後見制度の利用を取り止めたいです。そのようなことは可能でしょうか?
A

家庭裁判所に成年後見・保佐・補助の申立書を提出した後は、家庭裁判所の許可がなければその申立てを止めることはできません。家庭裁判所は「成年後見等の申立てを取り止めることがご本人の利益にかなうか」という視点で許可を出すかを決めますので、「候補者が後見人等に選任されない」という理由での申立ての取り下げは、許可される可能性が低いといえます。

誰を後見人等に選ぶかについて、基準はあるのか?

① 法律上の基準はあるのか

 法定後見についても任意後見についても、法律上、後見人等になることのできる資格というものは定められていません。そのため、どなたでも後見人等に就任することはできますが、法定後見制度を利用する場合、実務上は、本人の親族、専門職(弁護士、司法書士、社会福祉士など)、社会福祉協議会などの法人後見人、専門の研修を受けた市民後見人のいずれかが後見人等に選任されることがほとんどです。

② 家庭裁判所の運用はどのようになっているのか

 家庭裁判所の基準は公表されているわけではありませんが、一般的には、以下のように運用されているといわれます。

㋐ 解決すべき課題がない/少ないケースで、かつ、親族内に適切な後見人等候補者があるケース

 → 親族後見人

㋑ 解決すべき課題はない/少ないが、親族内に適切な後見人等候補者がいない/身寄りがないケース

 → 社会福祉士などの福祉専門職・社会福祉協議会などの法人後見人・市民後見人

㋒ 解決すべき法的課題があるケース、親族間に対立のあるケース

 → 弁護士や司法書士などの法律専門職

また、上記以外にも「ご本人の希望」「申立人以外の親族の意見」なども後見人等を決める際の考慮要素となります。特に、ご本人に一定の判断能力がある保佐・補助の場合は、ご本人の希望が重視される傾向にあります。

 もっとも、ケースにより、家庭裁判所の判断は異なってきます。解決すべき法的課題(遺産分割・債務の整理など)があるものの後見人等には社会福祉士を選任し、法的問題については後見人等に就任した社会福祉士から弁護士等に委任するという方法をとるケースなども存在します。

 なお、最近の家庭裁判所の運用では、親族の後見人の割合が減少し、専門職が後見人に選任されるケースが増えています。最近では、7割以上のケースで専門職の後見人が選任されています。また、地域によって差はありますが、社会福祉協議会などによる法人後見や市民後見が増えつつあります。

 先ほどもお話ししたとおり、最終的に誰を後見人等に選任するかは家庭裁判所が決めるため、各家庭裁判所の運用や申立ての内容、時期によって判断は異なってきます。誰が後見人等に就任するかは、後見等の開始決定が出るまでわかりません。そして、「誰を後見人等に選任するか」という点については不服申し立てをすることができません「この人に後見人等をお願いしたい」という希望がある場合には、判断能力が低下する前に任意後見契約を結んでおくなど対応が必要となります。

Q
後見人(・保佐人・補助人)による横領というニュースを聞いたことがあります。成年後見制度は安全な制度なのでしょうか?
A

残念ながら、後見人等による不祥事がありえないとは言い切れません。ただし、不祥事に関する報道が過熱する一方で、家庭裁判所の統計によると、不祥事の件数、被害額は、減少傾向にあります。また、専門職後見人(弁護士・司法書士・社会福祉士など)による横領の件数は、親族後見人による横領の件数に比べて、相当低い件数となっています。専門職後見人の横領があると珍しいため、大きくニュースで取り上げられたりしますが、実際には、横領の件数は、多くありません。

 また、家庭裁判所や弁護士会・司法書士会(リーガルサポート)・社会福祉士会(ぱあとなあ)は、それぞれ不祥事対策に力を入れており、その監督は年々厳しくなっています。監督機関のない/少ない制度に比べて成年後見制度の安全性は高いと考えます。

 なお、既に後見人等が選任されているケースで、横領などが疑われる場合には、速やかに後見人等を監督している家庭裁判所(通常、ご本人の住所地を管轄する家庭裁判所です。)に相談されることをお勧めします。

③ 家庭裁判所は何を参考にして後見人等の適性を見るのか

 家庭裁判所は、申立書の「候補者」の欄に特定の人物が記載されている場合、まず、申立書に添付された資料から候補者の適性を判断します。申立書の記載や資料から後見人等の業務の内容を予測し、その業務の内容に照らし、候補者が後見人等として適切か、判断をすることになります。このように、まずは書面で審査が行われますので、「候補者事情説明書」などの資料は重要です。

 その上で、家庭裁判所は、必要に応じ、家庭裁判所調査官や参与員と候補者との面談を行い、後見人等としての適格性を判断します。家庭裁判所は、①個別の事案において、後見人等として業務を行うことの適格性はあるか、②財産目録や報告書などの資料を作成する能力があるかといった事情を中心に、聞き取りなどを行います。また、「親族の同意書」(意見書)に意見が記載されているケースなどでは、その意見を参照することに加え、さらに親族の方からからの聞き取りを行うケースもあります。

 家庭裁判所は、これらの調査を踏まえ、①候補者を後見人等として選任するか、②複数の後見人等を選任するか、③後見監督人を選任するかなどの判断を行います。

 なお、上記の判断は後見等の申立時に行われますが、その後、事情が変化する場合があります。例えば「課題となっていた遺産分割が終了し、業務の中心が身上監護となった場合」などです。近年の家庭裁判所は、このように事情の変更があった場合には、柔軟に後見人等の変更を認めるという運用をしています。状況に応じ、家庭裁判所に情報提供をし、後見人等の変更の申立てをすることも考えられます。

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