契約書は「業務委託契約書」となっていますが、実際には労働者のような働き方をしています。どのような場合に「労働者」と認められるのでしょうか?

 最近、「業務委託契約書」や「(業務)請負契約書」などの名前の契約書にサイン(押印)をし、「個人事業主」(フリーランス)として働く方が増えています。しかし、仕事の実情を見ると、「実質は個人事業主ではなく労働者なのではないか」と疑われる事案も増えています。労働法の適用を逃れるため、契約書をあえて業務委託契約書にしているというケースも多く見られます。

 それでは、法律上、どのような場合に、「労働者」であると認められるのでしょうか。ここでは、その基準について、一般的なご説明をさせて頂きます。

労働者か否かは契約書の名称で決まるものではない

 よく、使用者側より「契約書の名称が「業務委託契約書」であるから個人事業主(フリーランス)だ」と主張されることがあります。しかし、裁判所は、そのようには考えません。裁判所は、その方の働き方の実態を見て判断をしています。働き方の実態が労働基準法や労働契約法上の「労働者」であると判断される場合、残業代の請求など、労働基準法や労働契約法上の主張ができることになります。「業務委託契約書」や「(業務)請負契約書」などの契約書を締結している方であっても、働き方によっては残業代の請求や契約解除の無効(解雇無効)などを主張することができる可能性があります。契約書の名称を見てあきらめるのではなく、働き方の実態を見て判断することが大切です。

  • 「労働者か否か」は契約書の名称によって決まるのものではない。裁判所は、働き方の実態を見て判断する。

どのような場合に「労働者」と認められるのか?

 残業代の計算方法は労働基準法で定められているため、残業代の請求をするためには「労働基準法上の労働者である」と認めてもらう必要があります。また、解雇の規制は労働契約法で定められているため、解雇(発注者側による一方的な契約解除)の無効を労働契約法を使って争うためには「労働契約法上の労働者である」ことを認めてもらう必要があります。「労働者」の要件は、以下のとおりです。

① 使用者の事業のために使用されている(指揮命令下で労働をしている)こと

 労働者であると認められるためには、使用者の指揮命令下で労働しているという状態が必要です。具体的には、以下のような事情から判断することになります。

  • 発注者(など)からの仕事の依頼を断る自由はあるか(断る自由がない場合、労働者と評価されやすくなる)
  • 発注者から業務の内容や方法について具体的な指揮命令が行われているか(具体的な指揮命令がある場合、労働者と評価されやすくなる)
  • 発注者から勤務場所が指定されているか、管理されているか(勤務場所が指定・管理されている場合、労働者と評価されやすくなる)
  • 発注者から勤務時間が指定されているか、管理されているか(勤務時間が指定・管理されている場合、労働者と評価されやすくなる)
  • 受注者本人が仕事をしなければならないか(誰かに再委託することが認められているか)(再委託が認められている場合、労働者ではないと評価されやすくなる)
  • 仕事に必要な機械・器具・自動車などを発注者が所有しているか、受注者側が所有しているか(受注者側が機械など(特に高額なもの)を所有している場合、労働者ではないと評価されやすくなる)
  • 受注者が発注者以外の他者(社)から仕事を受ける自由があるか(一つの発注者に拘束されている場合、労働者と評価されやすくなる)

「使用者の指揮命令下で労働をしている」といえるかは、以上のような各事情を総合的にみて検討します。どれか一つにあてはまった場合に、直ちに労働者性が認定される/認定されないというものではありません。

 なお、労働契約法上の労働者の定義では「事業のために」という要件は不要です。使用者の指揮命令下で労働をしていれば要件を満たすことになります。

② 使用者から賃金の支払いを受けていること

 労働の対価として報酬を受け取っていることが要件となります。「賃金」などの名目は問いません。労働の対価として報酬を受け取っているという事実が必要になります。

 なお、報酬に関して「支払われている報酬が、使用者の指揮監督の下で行う作業時間などを基準に決まっている」、「受け取る報酬が、同じような仕事をする労働者と比べて同程度である」「報酬が給与所得として源泉徴収されている」「退職金制度がある」「福利厚生の制度の適用を受けている」といった事実は、上記①の「使用者の指揮命令下で労働をしている」という要件を認定する方向に評価される事実です。

  • 労働者であると認められるためには、①使用者の(事業のために)使用されていること、②使用者から賃金の支払いを受けていることという要件を満たす必要がある。
  • 特に問題となるのは、「使用者に使用されているか」=「使用者の指揮命令下で労働をしているか」という点である。受託者側にどの程度の自由があるかがポイントとなる。

労働者として認められない場合、何の権利もないのか?

 労働者として認められない場合、労働基準法や労働契約法の適用を受けることはできません。そのため、残業代の請求などをすることはできません。一方、民法などの法律は労働者でなくても適用されますので、いつ、どのような場合でも好き勝手に契約を解除できるわけではありませんし、約束した報酬を支払わなくてもよいということにもなりません。問題が生じた場合には、ご自身が労働者に該当するか否かにかかわらず、まずは弁護士にご相談下さい。

 なお、最近、フリーランス保護のための法律をつくるべきとの議論もあります。今後、新たな法律が作成される可能性もありますので、報道などにもご注目下さい。

  • 労働者ではないとされた場合であっても、民法などの適用はある。何でも自由ということにはならない。
  • 今後、フリーランス保護のための法律が作成される可能性もある。

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