裁判所の手続で親子関係を争うことはできるのでしょうか?どのようにして争われるのでしょうか?
法律上、夫婦の婚姻期間中に生まれた子はその夫婦の子として推定されます。しかしながら、様々な事情により、婚姻期間中に生まれた子でも自身の子ではないという場合もあり得ます。このような場合、親子関係を争うことになりますが、親子関係を争う方法は民法で決められており、その方法にしたがって争うことが求められます。
ここでは、どのようにして親子関係を争うことになるのか、その手続きなどについて解説します。
親子関係の成立・・・民法の規定
① 母親と子の関係
母親と子の関係の成立については、通常、出産によって認められることになります。
なお、人工生殖の場合、母親と子の関係が複雑になることがあります。例えば、卵子を提供した遺伝上の母親と子を出産した方が異なる場合、どちらを母親にするのかという問題が生じます。現時点の民法では、子を出産した方が母親になるとされていますが、これが妥当なのかは議論があり、今後、法律が改正される可能性もあります。
② 父親と子の関係・・・父母が婚姻している場合
母親と子の関係とは異なり、父親と子の関係は、一見しただけではわかるものではありません。そのため、民法は、父親と子の関係について、以下の規定を設けています。
民法772条(嫡出の推定)
1 妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。
2 婚姻の成立の日から二百日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から三百日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。
以上のとおり、婚姻の成立の日から200日を経過した後、離婚などの日から300日以内に生まれた子は父親の子と推定されます。そして、この推定を覆し、父親と子との親子関係がないと認めてもらうためには、後でお話しするとおり、民法の規定する「嫡出否認」の手続きをとることが必要になります。「血縁上、父子関係がない」ことを証明しただけでは法律上の父子関係を否定したことになりません。
【嫡出の推定を受けない例外】
婚姻の解消又は取消し後300日以内に生まれた子のうち、医師の作成した「懐胎時期に関する証明書」が添付され、当該証明書の記載から、推定される懐胎の時期の最も早い日が婚姻の解消又は取消し後である場合には、前の夫を父としない出生の届出をすることができます。この場合「嫡出否認」の手続きを経る必要はなく、市区町村の窓口に届出をするだけで推定を覆すことができます。
③ 父親と子の関係・・・婚外子の場合
結婚をしていない父母から生まれた子(正確には、結婚の成立の日から200日よりも前に生まれた子や離婚などの後300日経過後に生まれた子)については、子を認知することによって父子関係が成立します。認知により、子が出征した時点にさかのぼり、法律上の父子関係が成立します(民法784条)。
民法772条の規定によって父子関係の推定を受けている子を認知することはできません。父子関係の推定を受けている子を認知するためには、まず、父子関係の推定を否定する必要があります。
認知は、市区町村への届出によって行います(民法781条1項)。遺言によって認知をすることもできます(同条2項)。胎児を認知する場合は母の承諾が必要で(民法783条1項)、成年の子を認知する場合、子の承諾が必要です(民法782条)。
なお、血縁関係がないにもかかわらず認知届の提出が行われた場合には、認知を受けた子や子の母親などの「利害関係人」は、認知の無効を主張することができます(民法786条)。
血縁上の父母関係が存在するにもかかわらず父親が認知をしない場合、子本人やその法定代理人(多くの場合は子の母親)などが、父親とされる方に対し、認知をするよう、求めることができます。認知を求める場合は、離婚の場合と同じように、まず、家庭裁判所に調停を申し立てなければならず、調停でまとまらない場合は認知を求める訴訟をすることになります。認知の調停・訴訟は、父親とされる方の生存中はいつでも申立てをすることができますが、父親とされる方が亡くなった後は死亡の日から3年を過ぎると申立てをすることができなくなります(民法787条)。認知を求める訴訟では、DNA鑑定の結果などにより、血縁上の父子関係が存在することを証明する必要があります。
- 母親と子の親子関係は、通常、出産によって発生する。
- 婚姻の成立の日から200日を経過した後、離婚などの日から300日以内に生まれた子は父親の子と推定される。
- 婚外子の場合、認知によって父親と子の親子関係が発生する。
嫡出の否認
① 「嫡出否認」とは
民法772条により、婚姻の成立の日から200日を経過した後、離婚などの日から300日以内に生まれた子は父親の子と推定されます。しかしながら、様々な事情により、血縁上の父子関係が存在しないということがあり得ます。民法772条の規定により法律上の親子関係が発生すると、養育費の支払義務が生じるなどしますので、これらの義務を否定するためには法律上の親子関係を否定することが必要です。民法上、法律上の親子関係を否定する方法は制限されており、「嫡出否認」の手続を利用しなければならないことになっています。
民法774条(嫡出の否認)
第772条の場合において、夫は、子が嫡出であることを否認することができる。
民法775(嫡出否認の訴え)
前条の規定による否認権は、子又は親権を行う母に対する嫡出否認の訴えによって行う。親権を行う母がないときは、家庭裁判所は、特別代理人を選任しなければならない。
民法776条(嫡出の承認)
夫は、子の出生後において、その嫡出であることを承認したときは、その否認権を失う。
民法777条(嫡出否認の訴えの出訴期間)
嫡出否認の訴えは、夫が子の出生を知った時から一年以内に提起しなければならない。
② 期間の制限
上記の中で特に重要なのは、手続きをできる期間が「子の出生を知った時から1年以内」に制限されているという点です。この期間を過ぎてしまうと、嫡出否認の手続により父子関係を否定することができなくなります。
なお、事案によっては、上記の期間を経過した後であっても「親子関係不存在確認の申立て」をすることができる場合もあります。詳しくは後程ご説明します。
③ 手続き
嫡出否認の申立てをすることができるのは、原則として夫のみです(他に夫の成年後見人や相続人の一部などが申立てをすることができます。)。妻側からの申立てをすることはできません。
申立ては、家庭裁判所に対して行います。子又は子の親権者である母親を相手方として、「嫡出否認の調停」を申し立てます。この調停において、当事者双方の間で子どもが夫の子どもではないという合意ができ、かつ、家庭裁判所が必要な事実の調査等を行った上でその合意が正当であると認めれば、合意にしたがった審判が行われます。
申立書の書式や必要な印紙(1200円)、郵便切手、添付資料(子の戸籍全部事項証明書などが必要になります。)などの詳しい情報は、家庭裁判所のウェブサイトをご覧になるか、家庭裁判所の窓口で案内を受けるようにして下さい。
- 婚姻の成立の日から200日を経過した後、離婚などの日から300日以内に生まれた子について、父親と子の親子関係を否定するためには「嫡出否認」の手続を利用する。
- 嫡出否認の手続きをできる期間は、夫が「子の出生を知った時から1年以内」に制限されている。
- 嫡出否認の申立は、原則として、夫からのみすることができる。
親子関係不存在確認の申立て
① 「親子関係不存在確認の申立て」とはどのような手続きなのか
民法772条による父子関係の推定は、原則として、嫡出否認の手続を利用しなければ否定することができません。しかしながら、夫が長期間海外に赴任をしていて夫婦が会っていなかった場合や夫が刑務所に収監されていた場合など、「外形的な事情からみて子の親が夫であることがあり得ない」というケースもあります。このようなケースでは、嫡出否認の手続によらず、父子関係を否定してよいのではないかという議論がありました。
現在の裁判所の実務は、「外形的な事情からみて子の親が夫であることがあり得ない」というケースでは、嫡出否認の手続をとらず、親子関係の不存在を争うことを認めています。具体的な手続きとしては、「親子関係不存在確認の調停」や「親子関係不存在確認訴訟」を利用して争うことになります。また、本来の父親とされる方を相手方として「認知調停」などを申立て、その手続きの中で戸籍上の父親との間の親子関係の不存在を争うこともできます。
② 裁判所はどのような場合に親子関係の不存在を認めるのか
現在の裁判所の運用は、夫が長期の海外出張、刑務所などでの受刑、父母の別居などにより、子の母と性的交渉がなかったことが明らかで、妻が夫の子を妊娠する可能性がないことが客観的に明白である場合には、夫の子であるとの推定を受けないと判断する傾向にあります。ただし、その判断は慎重な傾向にあり、例えば「別居をしていた」としても夫婦が全く会っていなかったといえないようなケースでは、父子関係の不存在を認めない傾向にあります。
なお、親子関係不存在確認の請求は、利害関係がある限り、いつでも申立てをすることができます。また、請求をする方も夫に限定されず、利害関係があればだれでも請求をすることができます。ただし、既に出生から数十年経っているような事案でも親子関係の不存在を認めてよいのかという問題が生じます。そのため、裁判所は、「親子関係不存在の確認を求めることが権利の濫用である」として、請求を認めないことがあります。
③ DNA鑑定の結果のみで親子関係の不存在を認めてもらうことはできるのか
妻が夫の子を妊娠する可能性が全くない状況であるとはいえないが、DNA鑑定をしたところ生物学上の親子関係がないことが判明した場合に、法律上の親子関係の不存在を認めるのかという問題があります。一般に、裁判所は、妻が夫の子を妊娠する可能性が全くないといえる状況を要求し、DNA鑑定の結果のみでは親子関係の不存在を認めない傾向にあります。DNA鑑定で生物学的には夫の子ではないと証明できたとしても、法律上の親子関係が否定されないこともあり得ます。
- 現在の裁判所の運用は、夫が長期の海外出張、刑務所などでの受刑、父母の別居などにより、子の母と性的交渉がなかったことが明らかで、妻が夫の子を妊娠する可能性がないことが客観的に明白である場合には、嫡出否認の手続をとらず、親子関係の不存在を争うことを認めている。
- 親子関係不存在の主張は、利害関係がある限りいつでもすることができ、夫以外の第三者からすることもできる。ただし、請求が「権利の濫用」とされるケースもある。
- DNA鑑定によって生物学上の親子関係がないと判断される場合であっても、法律上の親子関係が否定されないケースもある。
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