成年後見人に「葬儀」「火葬」「埋葬」などをお願いすることはできるのでしょうか?
成年後見人の業務は、ご本人が亡くなられた時点で終了します。ご本人の葬儀、火葬、埋葬などは、ご本人のご家族・ご親族が行うことになるのが原則です。しかしながら、ご本人にご家族・ご親族がいらっしゃらないケースや、ご家族・ご親族と疎遠であるなど、様々な理由により、「ご本人の火葬、埋葬などに関する業務を成年後見人にお願いしたい」とご依頼されるケースがあります。このような場合に、成年後見人が火葬や埋葬などの業務を行うことはできるのでしょうか。ご説明します。
原則・・・後見人等の業務は、ご本人が亡くなられると終了します
先ほどもお話ししたとおり、成年後見人等の業務は、ご本人が亡くなられた時点で終了します。成年後見人は、ご本人が生きておられた間に発生した施設利用料や医療費などの清算は行いますが、ご本人が亡くなった後については、一切、権限がありません。そのため、後見人等が、ご本人の火葬、埋葬、葬儀などをすることはありません。
なお、ご本人の火葬又は埋葬は、ご家族・ご親族の方が対応することが原則と考えられています。ご家族・ご親族の方がいらっしゃらないなど、火葬又は埋葬を担当する方がいらっしゃらないケースについては、法律上、ご本人が亡くなられた場所の市町村長が対応をすることになっています。
墓地、埋葬等に関する法律9条1項
死体の埋葬又は火葬を行う者がないとき又は判明しないときは、死亡地の市町村長が、これを行わなければならない。
以上のような規定になっていますので、「ご本人の火葬・埋葬をお願いするために成年後見人を選任してもらう」という考えは「間違い」ということになります。時々、「ご本人が亡くなられた後の対応のために成年後見人等をお願いしたい」というご相談を受けることがありますが、「ご本人が亡くなられた後の業務は成年後見人等の業務ではないので、ご要望にお応えすることはできない」とご回答することになります。
- 成年後見人の業務は、ご本人が亡くなられた時点で終了する。原則として、成年後見人がご本人の火葬・埋葬などの業務を行うことはない。
- 亡くなられた方の火葬又は埋葬を行う方がいらっしゃらない場合は、法律上、亡くなられた場所の市区村長が対応することになっている。
例外・・・家庭裁判所の許可を得て火葬又は埋葬をする場合
しかしながら、成年後見人等が火葬又は埋葬に関する業務を一切できないということになると、亡くなられたご本人を長期間放置することになりかねず、不都合が生じるというケースもありました。そのため、民法が改正され、以下のような一定の要件を満たした場合に限り、裁判所の許可を得て、成年後見人が、火葬又は埋葬に関する業務を行うことができるようになりました。ただし、これはあくまで例外的な取り扱いであることに注意が必要です。
民法873条の2(成年被後見人の死亡後の成年後見人の権限)
成年後見人は、成年被後見人が死亡した場合において、必要があるときは、成年被後見人の相続人の意思に反することが明らかなときを除き、相続人が相続財産を管理することができるに至るまで、次に掲げる行為をすることができる。ただし、第三号に掲げる行為をするには、家庭裁判所の許可を得なければならない。
一 相続財産に属する特定の財産の保存に必要な行為
二 相続財産に属する債務(弁済期が到来しているものに限る。)の弁済
三 その死体の火葬又は埋葬に関する契約の締結その他相続財産の保存に必要な行為(前二号に掲げる行為を除く。)
以下、要件をご説明します。
① 成年後見人が火葬又は埋葬を行う必要があること
家庭裁判所の許可を得るためには、成年後見人が火葬又は埋葬を行う「必要性がある」と認めてもらう必要があります。ご本人の相続人と連絡が取れない場合やご本人の相続人が遺体の引き取りを拒んでいるなどのケースが典型例です。成年後見人は、火葬又は埋葬に関する契約を締結する前に、これらの事情があることを家庭裁判所に説明をし、許可を得ることが必要になります。
家庭裁判所の運用によりますが、適切な申請であれば、申請から許可まで時間を要しないことが一般的です。家庭裁判所によりますが、適切な申請をすれば、即日決定を出す運用をしていることが多いかと思います。
② 「ご本人の相続人の意思に反することが明らか」とはいえないこと
ご本人の火葬又は埋葬に関する手続きは、本来、ご本人のご家族やご親族の方が行うべきものです。そのため、このような要件が求められています。
ただし、ご本人のご家族やご親族全員の同意を得ることが難しいケースも多いため、法律は「同意」を要求しておらず、「積極的に反対する相続人がいない」場合に許可を出すことになっています。実際には、「相続人の存在が明らかでない」、「相続人の所在が不明である」、「ご本人と相続人が疎遠である」といった理由で許可をする運用がなされています。
③ 火葬又は埋葬に関する業務であること
成年後見人が対応することができる業務は「火葬」(死体を葬るために死体を焼くこと)又は「埋葬」(死体を地中に埋めること)とされています。「葬儀」や「永代供養」などを行うことはできません。実際には「火葬」や「埋葬」に関する契約に付随して「納骨に関する契約」や「(宗教儀式を伴わない)通夜や告別式」などの契約を結ぶことが許可されるケースもあります。一方で、高額な支出が発生するケースや宗教的な儀式を行うケースは、相続人らなどとトラブルになることもありうるため、許可されないことが一般的です。
なお、火葬や埋葬の契約によって発生した費用は、原則として、ご本人の負担となります。成年後見人は、管理をしているご本人の資産から費用を回収します。その他相続財産の保存に必要な行為」であるとして、家庭裁判所の許可を得て精算を行うことになります。
④ 成年後見人による申請であること
民法873条の2に基づく家庭裁判所の許可を得ることができるのは「成年後見人」に限定されています。「保佐人」「補助人」には、この申請をする権限はありません。やむを得ず、保佐人、補助人が火葬又は埋葬に関する契約などをすることが必要になる場合には、後述の「事務管理」などによって対応をするしかありません。
- 民法の改正により、一定の要件を満たした場合に限り、成年後見人が火葬又は埋葬に関する業務を行うことができるようになった。
- 成年後見人が火葬又は埋葬の業務を行うことは例外であること、原則として火葬又は埋葬に関する業務しか行うことができないこと、保佐・補助の場合は利用することができないことなどに注意が必要である。
例外・・・「事務管理」などによる対応
民法873条の2の規定が制定されるまでは、成年後見人等は民法の「事務管理」の規定や「応急処分」として、ご本人が亡くなられた後の事務を行っていました。民法873条の2の規定が制定された後も、「事務管理」や「応急処分」による対応をしてはならないということにはなっていません。特に民法873の2の規定を使うことができない保佐人・補助人の場合は、「事務管理」や「応急処分」による対応をする他ありません。
ただし、これらの対応は例外的なものです。ご本人が亡くなられた後の業務は、本来、ご本人のご家族やご親族が対応するべきものですし、ご家族やご親族に対応してもらうことができない場合には市町村長が行うべきことになっています。成年後見人・保佐人・補助人による対応は、あくまで「例外的な対応」ということになります。これは民法873条の2が制定された後も変わりません。「ご本人の死後事務をお願いするために成年後見人をお願いする」という考えは誤りです。ご本人に契約能力がある場合には「死後事務委任契約」によって対応すべきです。
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