「身元保証契約」とはどのような契約なのでしょうか?どのような点に気を付けなければならないのでしょうか?
主に高齢の方や障がいをお持ちの方が賃貸住宅を借りたり、老人ホームやグループホームなどに入居をする際に「身元保証契約」(「高齢者サポートサービス」など、その名称は様々です。)を結ぶよう、求められることがあります。このような契約は、内容をよく理解し、納得された上で契約をされているのであればよいのですが、「契約内容が説明されていない」「よくわからないうちに高額の費用を請求された」などのトラブルも発生しています。
ここでは、「身元保証契約」について、どのような点に注意をしなければならないか、解説します。
「身元保証契約」とはどのような契約なのか?
法律上、「身元保証契約」の定義は決まっていません。また、契約の名称についても「高齢者サポートサービス」など、様々な名称が用いられています。そして契約の内容も様々です。一般的には以下のような内容のものが多いですが、契約の詳細な内容は、契約書などを確認しなければわかりません。
- 日常生活支援サービス
一般に、日常の買い物の代行や、緊急時の家族への連絡などのサービスなどを主な内容とします。 - 身元保証サービス
一般に、グループホームなどに入所する際や病院に入院する際などに、利用料・入院費用を支払うことができなかった場合に備えて費用の支払を保証するサービスです。
また、家族などに代わって、緊急時の連絡先になるというサービスもあります。 - 死後事務に関するサービス
一般に、自身の死亡後に、遺体の引き取りや住んでいた家やグループホームなどの原状回復などをするサービスです。
上記の分類はよくある契約を記載したもので、実際の契約内容は様々です。契約の名称(名前)ではなく、契約の内容をよく確認することが重要です。
契約を結ぶ前に気を付けるべきこと
まず、「身元保証契約」「高齢者サポートサービス」などの契約を結ぶにあたって、一般的に注意すべきことをご説明させていただきます。
① 契約の内容を必ず確認する
先ほどもお話ししたとおり、「身元保証契約」という名称の契約であっても、その中身は様々です。契約の名称を見ただけでは、その契約の内容を知ることができません。契約の中身を見た上で、「そのようなサービスを受けることが本当に必要なのか」考える必要があります。各契約内容について本当に必要なのかという問題は、「各サービスについて気を付けるべきこと」の部分をご覧ください。
特に悪徳な業者などは「あえて契約の内容を分かりにくくしている」ということもあり得ます。「契約書や案内の書類をよく見てもどのようなサービスを受けられるのかわからない」という契約は結ぶべきではありません。
また、「複数のサービスを一緒に提供している」というケースもあり得ます。その複数のサービスについて、全て必要なサービスであればよいのですが、中には不要なサービスを複数結ばせて高額な利用料を請求するということもあり得ます。複数のサービスが提供される場合には「本当にそのサービスが必要なのか」を1つ1つのサービスについて検討することが必要です。不必要な契約を結ばされることがないよう、注意が必要です。
② ご本人が契約の内容を理解できていなければならない
「身元保証契約」は、ご本人と業者との間で結ぶ契約です。「契約」である以上、「契約」を成立させるためにはご本人が契約内容を理解できていなければなりません。特にご本人が認知症や知的障がいなどにより契約の内容を理解できていない場合には、契約を結ぶことができません。事案によりますが、契約自体が無効となったり、取消しの対象となります。実際に契約を無効とした裁判所の判断もあります(京都地方裁判所令和2年6月26日判決)。
③ 利用料・預り金など、お金に関する部分をよく確認する
どのような契約を結ぶ場合も「金額」の確認は重要ですが、特に「身元保証契約」を結ぶ場合には「どのサービスを受けるためにいくらの利用料が設定されているのか」よく確認をすることが重要です。複数のサービスが提供されている場合には、いくらの支払をすることでどのサービスを受けることができるのか、確認をすることが重要です。「○○のサービスについては追加料金が発生する」という条項が入っていることもありますので、確認が必要です。
また、事業者によっては「入会金」「預り金」「事務手数料」などを設定していることがあります。これらについて、それぞれ「一度支払ったら返ってこないものなのか」「サービスを途中で解約した場合に返金されるのか」「1回限りの支払なのか、複数回支払う必要があるのか」など、よく確認をする必要があります。
特に「預り金」については注意が必要です。通常、「預り金」は、契約が終了すると、精算をして返金されるものです。しかしながら、この預り金について「保管方法が定められていない」、「帳簿が作成されていない」、「使途や残金の報告が行われない」、「契約終了時に(契約の相手方などに)寄付するという条項が入っている」などして、トラブルになるケースを見かけることがあります。契約をする前に「預り金」について十分な説明が行われ、問題になりそうな点はないか、確認をすることが重要です。説明に納得できない場合には、契約締結を拒否すべきです。
④ 契約の解除の方法が定められているか、確認する
「身元保証契約」は通常、継続的な契約ですので、契約後に事情の変更があったり、ご本人の判断能力に変化があるなどして、契約の解除や契約内容の変更が必要となることがあり得ます。しかしながら「契約の解除を一切に認めない」という契約条項が入れられている場合があります。(この条項が有効なのかという問題はありますが)契約の解除や内容を制限する条項が入っている場合には、本当に契約をして大丈夫なのか、慎重な検討が必要です。
また「契約を途中で解約した場合には、一切返金をしない」という条項が入っている場合もあります。このような条項も、しばしば、トラブルになることがあります。契約終了時の清算方法について定めがあるか、一切返金が受けられないということはないか、契約前によく確認をすることが重要です。
⑤ トラブルが起きたときの苦情申出窓口があるかなどを確認する
事業者によっては、契約についての苦情申出の窓口を設定していることもあります。このような苦情申出の窓口が設定されているかは、相手方の業者が信頼できるかを判断する一要素となります。
各サービスについて気を付けるべきこと
① 日常生活支援サービス
日常生活の支援サービスには様々なものがあります。契約を結ぶ際には、まず「どのようなサービスを受けることができるのか」確認をする必要があります。契約内容を理解した上で「そのサービスを受けることが本当に必要か」検討することが重要です。サービスの内容によっては社会福祉協議会が提供をしている「日常生活自立支援事業」の利用も考えられますので、必要に応じて検討をされることをお勧めします。
要支援や要介護の認定をお持ちの方は、サービスの内容によりますが、介護保険を利用したサービスを受けることができる可能性もあります。ご自身がどのようなサービスを受けることができるか、地域包括支援センターにご相談されることをお勧めします。介護保険などによりご自身が受けることのできるサービスに加えて日常生活支援サービスを利用する必要があるか、検討することが必要です。
また、特に「買い物支援」などのサービスについては預り金が発生するケースが多いと思われますので、費用の清算をどのように行うのか、確認することが重要です。
② 身元保証サービス
身元保証サービスは、一般に、入院や介護施設への入所に際して、お金の心配がある方やご家族のサポートを受けることが難しい方などのために、支払いを一時的に立て替えたり、緊急時の連絡先になるというサービスです。老人ホームやグループホームなどに入所する際に、身元保証サービスを利用するよう、求められて契約するケースが多いかと思います。
しかしながら、本当にこのような契約が必要なのか、よく確認をする必要があります。
まず、重要なこととして、法律上、老人ホームやグループホームへの入所・病院への入院の際に「身元保証人」を準備することが必須ということはありません。「身元保証人」を要求してくることが多いですが、身元保証人なしで入居できる施設も存在します。また、下記のとおり、病院は、身元保証人がいないという理由だけで入院を拒否することはできません。
「身元保証人等がいないことのみを理由に医療機関において入院を拒否することについて」(平成30年4月27日 厚生労働省通知)
医師法(昭和23年法律第201号)第19条第1項において、「診療に従事する医師は、診察治療の求があった場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない。」と定めている。ここにいう「正当な事由」とは、医師の不在又は病気等により事実上診療が不可能な場合に限られるのであって、入院による加療が必要であるにもかかわらず、入院に際し、身元保証人等がいないことのみを理由に、医師が患者の入院を拒否することは、医師法第19条第1項に抵触する。
また、成年後見制度を利用されている場合には、成年後見人等が適切に費用の支払をしてくれますので、そもそも費用が未払いになるということは、通常、考えられません。成年後見制度を利用している場合に、重ねて「身元保証サービス」を利用する必要は、通常、ありません。
なお「医療の同意ができる」とうたっている業者もありますが、ご本人以外の方が医療の同意をすることはできませんので、注意が必要です。
入院時や入所時に「身元保証サービス」の利用を求められた場合、「本当に必要なのか」をよく考える必要があります。「絶対に必要だ」と強く求めてくることもあるかと思いますが、立ち止まって検討することが重要です。必要に応じ、弁護士などの専門家や消費生活センター、地域包括支援センターなどに相談することもご検討ください。
③ 死後事務に関するサービス
死後事務サービスは、一般に、家族・親族など身寄りがない方が亡くなられた後に、葬儀や入院・入所費用の支払いなどの事務手続きを代行することを主な内容とするサービスです。このようなサービスは、民間の事業者のみでなく、弁護士や司法書士などの専門家、自治体や社会福祉協議会などの公的な組織が提供をしていることもあります。契約をする相手方について、信頼をすることができる相手方なのか、十分な検討を行うことが必要です。
なお、「遺言の作成を代行する」という事業者もありますが、その内容によっては弁護士や司法書士などの専門家でなければ対応できないものの場合もあり、無資格の方が対応すると法律違反になる場合もありますので注意が必要です。
問題がありそうだと感じたらどうすればよいか?
「身元保証契約」の契約を検討する中で「このまま進めて大丈夫なのか」と疑問を持たれた場合には、契約を締結せず、専門的な知識をお持ちの方に相談をすることが重要です。主な相談先は以下のとおりです。
- 弁護士などの専門家
- 各市区町村の消費生活センター
- 各市区町村の地域包括支援センター
これらの機関はそれぞれ連携して対応をしておりますので、まずは、問い合わせをしやすい場所にご相談されることをお勧めします。できる限り、契約を締結する前にご相談されることをお勧めしますが、契約締結後に問題が生じた場合にも、常に相手方の請求に応じるのではなく、「おかしいな」と思ったらすぐに相談されるよう、お勧めします。
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