成年後見制度の利用は、ご本人の家族にとってメリットがあるものなのでしょうか?

 成年後見制度のご相談をご本人のご家族からお受けする場合「成年後見制度を利用することによって家族にメリットはあるのか」という質問をよく頂きます。また、主にご家族から「成年後見制度は使い物にならないから民事信託(家族信託)を利用したい」というご要望もよくお伺いするところです。

 ここでは、上記のようなご質問に対する、一般的な回答をお答えします。

成年後見制度はご家族のための制度ではない

 まず、最初に確認をしておかなければならないのは、「成年後見制度(法定後見制度・任意後見制度の両方)は、ご本人のための制度であり、ご家族のための制度ではない」ということです。この点は間違いやすいところです。「成年後見制度の利用を開始したが、家族にとってメリットがない。」という声を報道などで耳にすることがありますが、これは、成年後見制度そのものの理解が誤っているということになります。最近、「ご本人にとってメリットのある成年後見制度」になるように制度改革が進められていますが、「ご本人のため」の制度改革であり、「ご本人のご家族のための制度改革」ではないことに注意が必要です。

 以上のとおり、そもそも、成年後見制度は、ご本人のご家族のためのものではありません。これは、ご本人のご家族が(法定後見制度の)成年後見人等に選任された場合や任意後見人候補者になる場合も変わりません。ご本人のご家族が(任意後見人を含む)成年後見人等に就任したからといってご本人の財産を自由に使うことができるわけではありません。ご家族の成年後見人等は、裁判所、後見監督人等により「ご本人の財産をご本人のために使っているか」監督を受けます。ご家族の成年後見人等が、ご本人以外の方(ご自身やご自身の家族など)のためにご本人の財産を使用した場合、裁判所により後見人等を解任されたり、財産の返還を命じられたり、事案によっては業務上横領罪として刑事罰に問われることもあり得ます。

 以上のとおり、成年後見制度を利用することによってご家族がご本人の財産を自由に扱うことはできません。成年後見制度の利用を検討するにあたっては、この点を十分に理解する必要があります。誤解されている方も少なくないので、注意が必要です。

成年後見制度を利用することによるご家族側のメリットはあるのか?

 それでは、成年後見制度を利用することについて、ご家族側にメリットはないのでしょうか。先ほどもお話ししたとおり、成年後見制度はご本人のための制度であるため、ご家族側の直接のメリットはありません。ただし、直接的なメリットではありませんが、以下のような点はメリットといえるものかと思います。

① 成年後見人が選任されることにより、各種の手続きを進めることができる

 これはメリットといってよいものなのか微妙ですが、例えば遺産分割をしようとした場合、相続人のうちの1人が認知症などで判断能力を失っている場合、そのままでは遺産分割の手続を進めることができません。遺産分割の手続を進められないということは、被相続人の方の預貯金を引き出したり、不動産の名義を書き換えたりすることができないということになります(一部例外はあります。)。成年後見人等が就任することにより、遺産分割などの手続を進め鵜rことができるようになりますから、このような問題は解消します。

② 財産の管理状況が明確になり、不必要な出費が減少する

 成年後見人等が選任されると、成年後見人等はご本人の財産について帳簿を作成します。この帳簿は、家庭裁判所(及び選任されている場合は後見等監督人も)による監督を受けます。この帳簿が作成されることにより、財産の管理状況が明確になります。例えば、ご本人が亡くなられた場合には、この成年後見人等が作成した帳簿を見せてもらうことにより、相続財産を把握することができます。このように、記録がしっかりと残るため、主に相続発生後に発生する「使途不明金問題」などを予防することができます。

 また、成年後見人等が選任されることにより、悪徳商法の被害を防止する等して、ご本人の財産を守ることができます(補助類型で同意権・取消権がない場合や任意後見の場合は除きます。)。相続人のためにご本人の財産を保全することは成年後見制度の目的ではありませんが、結果的に相続財産の保全につながることになります。

③ 特に専門職の後見人等が選任された場合、各種手続きにスムーズに対応をしてもらえる

 年金や各種福祉関係の手続き、入院・入所などの契約、金融機関の対応など、ご本人のためにしなければならない手続きは、それなりに多く、手続きによっては必要書類の収集や作成など、手間のかかるものも多くあります。特に専門職の後見人等が選任される場合、通常、専門職はこれらの手続に慣れていますので、スムーズに手続きに対応をしてもらうことができます。ご家族の手間は少なくなります(ただし、成年後見人等が選任された場合でも、医療同意など、ご家族が対応しなければならない手続きも残ります。)。

④ 「成年後見制度を利用すると、第三者の利益のための支出はすべて禁止される」というわけではない

 よくある誤解として、「成年後見制度を利用すると、それまで、ご本人が第三者のためにしていた贈与などは全て禁止される」というものがあります。確かに、後見人等が選任されると、ご本人による支出が適切なのか、検討しなければなりません。しかしながら、例えば、これまで、ご本人が配偶者に毎月決まった額を渡していたような場合であり、ご本人が、これからも同じように続けていきたいというご意向を持たれているような場合には、(ご本人の生活が回らなくなるなどの問題が発生する場合を除き)ご本人の意思を尊重し、これまで通りの贈与を続けていくという判断をする後見人等が多いかと思われます。もちろん事案によって判断は様々ですが、「第三者への贈与は一切許さない」という硬直的な運用ではありません。

 ただし、ご本人の意思に反して贈与を続けることはできませんし、後見人等が選任された後、新たに、ご本人の自宅を第三者に贈与をするなど、これまでしてきていなかったことを新たに行うということは、通常、できません。

民事信託(家族信託)の場合、成年後見と異なるのか?

 ここまでお話をしてきたとおり、成年後見制度は、基本的には、ご本人のご家族のための制度ではないということになります。そのため、「成年後見制度ではなく、民事信託(家族信託)を使うべきだ」という意見が、インターネット上などでもよく見られるところです。それでは、民事信託(家族信託)を使うことにより、ご本人やご本人のご家族にとってメリットが発生するのでしょうか。

 民事信託の場合、契約により利益を得る人(「受益者」と呼びます。)を設定することができます。この受益者の設定次第では、ご本人以外が利益を受けるように設定することもでき、例えば、ご本人の所有する不動産から発生する家賃を信託により長男が管理をし、その賃料は長女が受け取るというような契約を結ぶことも可能です。このように、民事信託を利用することにより、ご本人以外のご家族が利益を受けるようにすることも可能です。

 一方、注意をしなければならないこととして、以下のような点を指摘する必要があります。

① 民事信託(家族信託)は何でもできる魔法の制度ではない

 民事信託は、ご本人の財産の管理、運用を目的とする制度です。ご本人の契約の代行などを行うことはできません(成年後見で「身上監護」と呼ばれるものをすることはできません。)。また、年金受給権など、信託することができない財産もありますので注意が必要です。民事信託を行うことで全ての課題が解決するということはありません。民事信託が適切な事案であるかの見極めが必要ですし、事案によっては、民事信託と別の制度を併用することも考えなければなりません。

② 民事信託は「契約」なので、ご本人の意図に反して民事信託を組成することはできない

 民事信託は、ご本人と信託の受託者(財産の管理運用をする人)との間の契約です。ご本人が合意をしなければ契約は成立しません。ご家族が、ご本人に代わって契約を結ぶことはできません。

 一般に、民事信託の契約は公正証書で作成することになります(法律上、強制ではありませんが、公正証書で作成されていない信託契約書の取り扱いを拒否する運用をしている金融機関などもあります。)。そのため、契約の際に公証人によるご本人の意思確認が行われます。ご本人が、自らの意思で自身の財産をご家族に信託する場合は問題ありませんが、ご家族の側が主導をする場合には注意が必要です。

③ 民事信託を利用する場合、適切な「受託者」を自分で探すことが必要になる

 民事信託を利用する場合、民事信託の委託をする方が、自分で民事信託の「受託者」(財産を管理・運用する方)を探さなければなりません。法定後見制度のように、家庭裁判所などが適切な受託者を探してくれることはありません。民事信託を利用する場合、ご家族を受託者とすることが多いと思いますが、受託者には重い義務が課されますので、ご家族の中に適切な候補者がいるか、検討しなければなりません。自身の財産を安心して任せることができる方を自分で探し、お願いすることが必要になります。

 ご家族などの中に適切な候補者がいらっしゃらない場合、信託銀行などへの信託を検討する、民事信託ではない別の制度を利用するなどの検討が必要になります。

④ 民事信託は「契約」なので、本人が判断能力を失った後に民事信託を組成することはできない

 ②でもお話ししたとおり、民事信託はご本人と受託者の間の契約です。民事信託の契約を作成する段階で、ご本人と受託者の両名が契約の内容を理解していなければなりません。ご本人が認知症などの影響で判断能力を失っている場合、契約の内容を理解することはできませんので、民事信託の契約をすることはできません。特に民事信託の契約を公正証書で行う場合、ご本人が契約内容を理解できているか、公証人がチェックをすることになります。ご本人のご理解の状況によっては、公証人が契約書の作成を拒否することもあり得ます。

 以上の問題がありますので、民事信託の契約は、早いうちからしていくことが必要になります。時々、ご本人が判断能力を失った後に、ご家族から「今から民事信託を利用することはできないか。」とのご相談を頂くのですが、このような場合には、「民事信託の契約を作成することはできません。成年後見制度(法定後見)をご利用下さい。」と回答する他ありません。

⑤ 「民事信託=節税」となるわけではない(節税対策は別に行わなければならない)

 民事信託という制度そのものには節税の効果はありません。間違いやすい点なので注意が必要です。節税の効果を得るためには、信託の受託者が、受託後に節税対策を行わなければなりません。民事信託を利用する場合、複雑な税金の問題が発生することもありますので、税理士に相談されることをお勧めします。

 このように、民事信託も万能の制度ではありません。重要なのは、ご本人が何を望んでおられるのかという点をしっかりと確認することです。ご本人のご意向を確認したうえで、適切な手続きを選択するようにしなければなりません。どのような場合のどのような手続きを利用すべきかは、ぜひ、専門家にご相談下さい。

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