養育費の増額・減額請求が認められるのはどのような場合なのでしょうか?

 「一度決めた養育費を変更することはできるのか?」という質問をお受けすることがあります。このご質問への一般的な回答としては、

  • 父母(元夫婦)の合意があれば、いつでも養育費の額を変更することができます。
  • 家庭裁判所で養育費の変更について話し合うことができます。この場合、話し合いがまとまれば、養育費の額を変更することができます。
  • 父母の合意が整わない場合、「事情の変更があった」と認められる場合には、家庭裁判所の審判によって養育費の額を変更してもらうことが可能です。

となります。この中で問題となるのは、父母間の合意が整わない場合に、どのような事情があれば、家庭裁判所が養育費の額を変更してくれるのか、という点でしょう。以下、解説します。

養育費の変更が認められるための一般的な要件

 民法は、扶養義務の変更について、以下の規定を置いています。

民法880条(扶養に関する協議又は審判の変更又は取消し)
 扶養をすべき者若しくは扶養を受けるべき者の順序又は扶養の程度若しくは方法について協議又は審判があった後事情に変更を生じたときは、家庭裁判所は、その協議又は審判の変更又は取消しをすることができる。

 この条文の中で重要なのは「事情に変更を生じたとき」の解釈になります。家庭裁判所で養育費の額を変更してもらうためには、「事情に変更を生じたとき」に該当することを認めてもらう必要があります。

 この「事情に変更が生じたとき」に該当するためには、一般的に、

  • 以前に養育費の額を定めた時点では予測することのできなかった事情の変化であること
  • 以前の養育費の取り決めを維持することが困難な程度に事情の変更が顕著であること

が必要とされています。「事情」には、再婚・養子縁組などの身分の変更、転職・昇進などによる収入・資力の変更、子や父母の健康状態の変更などが含まれると考えられています。

身分関係の変化

 養育費の変更が認められる典型的な例として、再婚・養子縁組などの「身分関係の変更」があげられます。

 具体的にどのように計算をすべきかは、事案によって異なります。

① 養育費を支払っている側が再婚をした場合

福岡高等裁判所平成26年6月30日決定
 抗告人及び相手方は、調停離婚後、それぞれ再婚し(ただし、相手方はその後離婚している。)、抗告人は、G及びHと養子縁組をし、その後、新たにIが出生しているが、これらはいずれも調停時には想定されていなかった事情であり、これらによってそれぞれの生活状況は大きく変化し、(中略)抗告人が負担すべき未成年者の養育費の算定結果も相当程度変わっているというのであるから、民法880条にいう「事情に変更を生じたとき」に該当するというべきである。

 養育費を支払っている側が再婚をし、再婚相手や再婚相手の子(連れ子を養子縁組をした場合や新たに子が生まれた場合)を扶養することになった場合、扶養をする対象が増えるため、養育の減額が問題となります。結婚はしていないが、内縁の関係になるような場合にも、同様の問題が発生します。具体的にいくらの減額になるかは、事案によって異なります。義務者の収入を扶養を受ける者の人数に合わせて分けていくことになりますが、その方法は複雑です。ご自身や再婚相手の収入に関する資料を持参し、弁護士に相談されることをお勧めします。

 一方、再婚はしたが、再婚相手が自身で十分な収入を得ており、かつ、未成熟の子がいない(あるいは養子縁組をしない)場合など、扶養をする対象の人数に変更がない場合には、通常、養育費の減額は認められません。

 また、養育費の合意をした時点ですでに再婚が決まっていた場合や再婚相手の妊娠がわかっていたような場合には、養育費の減額請求が認められない場合もありますので、ご注意ください。

 なお、通常、家庭裁判所は、養育費の減額は減額の請求をしたときから効力が生じるという運用をしています。再婚をした時点で、自動的に養育費の額が変更されるわけではありません。再婚により扶養をする対象が増えた場合には、速やかに弁護士に相談をされ、必要な手続きを進めていかれることをお勧めします。

② 養育費を受け取っている側が再婚をした場合

福岡高等裁判所平成29年9月20日決定
 両親の離婚後、親権者である一方の親が再婚したことに伴い、その親権に服する子が親権者の再婚相手と養子縁組をした場合、当該子の扶養義務は第1次的には親権者及び養親となったその再婚相手が負うべきものであるから、かかる事情は、非親権者が親権者に対して支払うべき子の養育費を見直すべき事情に当たり、親権者及びその再婚相手(以下「養親ら」という。)の資力が十分でなく、養親らだけでは子について十分に扶養義務を履行することができないときは、第2次的に非親権者は親権者に対して、その不足分を補う養育費を支払う義務を負うものと解すべきである。そして、何をもって十分に扶養義務を履行することができないとするかは、生活保護法による保護の基準が一つの目安となるが、それだけでなく、子の需要、非親権者の意思等諸般の事情を総合的に勘案すべきである。
 これに対し、抗告人は、実親が子に対して負う扶養義務は、生活保持義務、すなわち、自分の生活を保持するのと同程度の生活をさせる義務であり、その実親が子に対して負う生活保持義務を、養親が実親に優先して第1順位としてまず負担し、養親の負担によりその全額が賄えないときには、第2順位として不足分を実親が負担すべきであると主張する。
 しかし、養子縁組の制度は、未成年者の監護養育を主たる目的としており、養子縁組は、子の福祉と利益のために、その扶養も含めて養育を全面的に引き受けるという意思のもとにしたというのが相当であり、このような当事者の意思及び養子制度の本質からして、子に対する扶養義務は、第1次的に養親にあり、実親は、養親に資力がないなど、養親において十分に扶養の義務を履行することができない場合に限って、扶養義務を負うものと解すべきである。非親権者である実親の資力が養親らのそれよりも高いからといって、非親権者である実親に対して、その差を埋め合わせるだけの金額を請求することはできない。

 養育費を受け取っている側が再婚をした場合、再婚相手と子が養子縁組をした場合には、子を扶養する義務を負う人が増えるため、養育費の減額・消滅の問題が生じます。考え方は分かれていますが、一般的に、子が養子縁組をした場合、まず、養親が扶養義務を負い、養親が十分に扶養をできない場合には、実親が扶養義務を負うと考えられています。

 一方、再婚相手と子が養子縁組をしない場合は、子の扶養義務者の人数に変動がないため、通常は、養育費の減額は認められません。ただし、再婚相手と子が養子縁組をしない場合であっても、再婚相手が裕福であるなどして、事実上、子が再婚相手から扶養を受けているような事案では、公平の観点から実親の養育費を減額することもありうると考えられています。

父母の所得の変化

 父母の所得の変化も、客観的な事情の変更であり、養育費を取り決めた当時に予測できなかったものの場合は、「事情に変更を生じたとき」にあたると考えられています。注意が必要なのは「養育費を取り決めた当時に予測することができなかった」所得の変化であることが要件とされている点です。養育費を取り決めた時点で予測可能なことは養育費の取り決めの交渉・調停・審判の中ですでに考慮されているはずであることから、このように考えられています。

 具体的には、勤務先が倒産、失業し、収入を失った場合などが「事情の変更を生じたとき」にあたるとされています。

一方で、ある程度の収入の変動は、「事情の変更を生じたとき」には当たらないと判断されることが多いと思われます。自営業者の業績の変化も、一定の範囲は事情の変更にあたらないと判断されることが多い傾向にあります。

その他の事案

 以上の他に、養育費の増額・減額が認められる要素としては、以下のような事情があると考えられています。

  • 子が収入を得るようになり、独立をしたこと → 減額・免除
  • 子が高校・大学などに進学したこと → 増額

 ただし、どのような事案で養育費の増額・減額が認められるのかは、事案によって異なります。まずは、一度、弁護士にご相談ください。

 なお、通常、家庭裁判所は、養育費の増額・減額は増額・減額の請求をしたときから効力が生じるという運用をしています。事情の変更が起こった時点で、自動的に養育費の額が変更されるわけではありません。事情の変更が起こった場合には、速やかに弁護士に相談されることをお勧めします。

Q
令和元年12月23日に「改定標準算定表(令和元年版)」が公表されたことは「事情に変更を生じたとき」にあたるのでしょうか?
A

「改定標準算定表(令和元年版)」の解説では「事情の変更にあたらない」とされており、家庭裁判所の運用も同じようになっています。

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